アメリカの高校生が学校で習う「資本主義」の本質 「新しい資本主義」を考えるいま再確認したい

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それに加えて、経済と国家が人々のために存在するのではなく、人々が経済と国家のために存在することになる。その典型が北朝鮮だ。北朝鮮に私有財産は存在せず、すべて国のものだ。多くの労働者は何かを生産しようという気にならず、たとえその気がある人でも、質の高いものを生産しようとは思わない。指令経済では、個性、イノベーション、多様性が失われやすい。

1984年の映画『ハドソン河のモスコー』を観れば、指令経済における選択肢の少なさがよくわかる。ロビン・ウィリアムズ演じるソ連人のサックス奏者がモスクワの国営スーパーに買い物に行くと、食料品の棚はスカスカで、同じような商品しかなく、店内には長い行列ができている。その後、彼はモスクワのサーカス団の一員としてマンハッタンを訪問し、こっそり抜け出してアメリカに亡命する。そして、彼を受け入れた家族に頼まれてスーパーにコーヒーを買いに行くと、あまりの品数の多さに圧倒されて気を失ってしまうのだ。

市場経済――個人が利益を追求する

指令経済の正反対に位置するのが「市場経済」だ。市場経済では、中央集権的な意思決定がまったく行われない。計画をトップダウンで押しつけるのではなく、ボトムアップで機能する。個人が自分の利益のために経済活動を行い、それが「何を、どうやって、誰のために生産するか」という問いに答えることになる。

市場経済において資源の最適な配分を決めるのは、伝統でも政府でもなく「見えざる手」だ。市民が自らの自由意志で市場に参加し、資源や製品を売ったり買ったりする。その目的は、自分の幸福感を高めることだ。市場経済のほうが、指令経済よりも豊かで多様性のある経済を実現し、人々の満足度も高い。

純粋な形での市場経済とは呼べないが、香港、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドが市場経済の代表だ。財とサービスの種類が豊富にあり、人々は国のために働いているわけではないので、自由に職業を選ぶことができる。私有財産が認められ、所有する資源の使い方も自分で決めることができる。

市場では、技術革新、生産性、効率性が奨励され、現状維持、怠惰、ムダが排斥される。市場経済に欠点があるとすれば、それは生産活動に従事しないことを選んだ人、あるいは何らかの事情で従事できない人が市場に参加できず、その結果として市場経済の利益を受け取れないことだろう。

現在、指令経済は衰退し、そして純粋な形での市場経済は存在しない。世界でもっとも広く採用されているのは、指令経済と市場経済を組み合わせた経済システムだ。これは「ハイブリッド経済」と呼ぶのが正しいかもしれない。もっとも一般的なハイブリッド経済が、「社会主義」と「資本主義」だ。

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