「昔話」が教えてくれる「欲を捨て人生を開く方法」 自分の半径3メートルの世界が明るくなる秘訣

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これができるようになって、それをお店の人だけじゃなくて常連のお客さんなどに応用しているうちに、少しずつ知り合いが増えて、「もらう」「あげる」の輪を広げていくことができた。

それに慣れてくると、さまざまな応用も頭に浮かんでくるようになる。

顔見知りに道ですれ違った時、決して見て見ぬ振りをしてコソコソなどせず、正面から笑顔で「お久しぶりです!」「お元気でしたか?」と一声かける。自分もそうだからよくわかるんだけど、人は人に存在を認めてもらうだけで生きる気力が湧いてくるものなのである。

で、最近ではここに一言、ちょっとしたオマケの言葉を言うこともできるようになった。なんでもいいのだ。「お元気でしたか?」でなく、「なんかお元気そうですねー」と言うだけで相手の顔はパッと輝く。自分もそうだけで、まったく元気が無い時でも、人にそう言ってもらえるとなぜか元気が出てくるんですよね。

服装を褒めるのも、とても喜ばれる。以前、近所のお店のおばあさまがおしゃれして外出しているところに遭遇し「あらー、めちゃくちゃ素敵です!」とご挨拶したところ、その翌日に当該のお店へ行ったら、ご主人から「昨日、うちの奥さんがえらい喜んで帰ってきたよ」とご報告いただき、あれしきのことでそんなに喜ばれたのかとこちらもうれしくなったのであった。

言葉のプレゼントのいいところは、なんの元手も入らず、いつでもどこでもいくらでもあげられること。そして言っても言っても損することはないばかりか、先方が喜んでいるとこちらもたちまち幸せになるところだ。これほど効率的で効果の高い贈り物はなかなかない。

笑顔でいるだけで「花さかじいさん」になれる

ゆえに、これはなかなかクセになる。そしてやればやるほどこちらのスキルが上達してくる。相手の置かれた状況に合わせて、何気ない言葉をパッと発する反射神経が確実に磨かれてくるのである……いや、調子に乗ってちょっとハードルを上げてしまったが、それが難しければただすれ違う人ににっこりするだけでもいいのである。

瀬戸内寂聴さんがどこかで書いておられたが、笑顔でいることは一つの行であり、それだけで世の中を変えられると仏さまは教えているそうであります。つまりはただ意味もなくニコニコしているだけで、それは立派な「あげる」行為なのであります。

何事もまずはやってみること。さすれば、このような小さな心がけで、まさに枯れ木に花が咲くように、自分の半径3メートルの世界が、パッパッと明るくなるのが手に取るようにわかるようになる。これぞまさに、リアルな「花さかじいさん」の世界ではないか。自分の半径3メールが平和で笑顔に溢れているということを、世界平和というのだとしみじみ思う今日この頃であります。

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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