転機は突然やってきた。
キャバクラ時代のお姉さん(年上のキャバ嬢)が、
「ヒマでしょ? ネイルの道具買ってあげるから、覚えて、あんたがやってよ」
と言ってきたのだ。
「そのお姉さんはネイルサロンに行くのが嫌いだったそうです。それで私に覚えさせて、自宅でやってもらおうと思いついたみたいです。
正直、それまでネイルには全然興味はありませんでした。もちろんキャバクラにいるので毎月、ネイルサロンには通ってましたが、特にこだわりはありませんでした」
お姉さんは、通信販売で買えるジェルネイルキットのセットを買ってくれた。
「そのとき自分には何もなかったから
『よし、行ったれ!!』
と思いました。ネイリストをやっている友達にお願いして、爪の形の作り方、ワンカラー、グラデーションのそれぞれの色の塗り方など基礎を教えてもらいました。
それからはめちゃくちゃ練習しました。自分の爪に塗って、剥離して、を繰り返して、いつしか爪はボロボロになりました。友達を家に呼びまくって、ひたすら塗らせてもらいました」
5カ月間必死に練習して、東京のネイルサロンで働くことになった。
必死に働いて技術を磨いた
そこでも鬼のように働いた。
「毎日朝から翌日の明け方まで、ぶっ通しで働いてました。ほかの人の倍の仕事をしたら、ほかの人の倍の経験を得られると思ったんです。
実はずっと夜の仕事をしていたことに劣等感がありました。いくらがんばっても見下されているような気がしていたし。実際なんの成果も上げてない自分がいました。
だから技術を磨いてネイリストとして1人で食べていけるという安心感が欲しかったんです。人生で本気でがんばったのって、中学時代の部活動と、ネイルの最初のときだけだと思います」
ネイリストはアーティストとしての才能が求められるように思える。
結木さんは絵を描く才能や、センスに恵まれていたのだろうか?
「小さい頃は身体が弱くてよく入院してました。絵を描くくらいしかやることがなくて、描いたら褒められてました。だから『私には絵の才能がある』と思いこんでたんですね。
だからネイル始めたときに張り切っていろいろなデザインを作ってみました」
結木さんが独自で考えたデザインを、教えてくれた友達に見せると、
「美しくない」
「色の選び方が独特でよくない」
などと苦言を呈された。
「そのときにキャバクラ時代に感じた、
『自分は美しくない』
に続く、
『自分には絵の才能はない』
という第2の気づきがありました。そして
『自分はアーティストである』
という考えをやめようと思いました。
絵を描きたいという気持ちはあるけど、自分には独創性はない、抜きん出たところもない。ゼロから作品を作り出すことはできないタイプだと自覚しました。
ネイルに対して自分の意見を言わない。自分のオリジナルデザインも作らない。
ただそのかわり、本やSNSなどでものすごい数のネイルを見ました。
『これとこれを、こういう合わせ方にしたら安全牌なデザインになる』
『このタイプの女性は、こういうネイルが好きな傾向にある』
などたくさんの知識を持ち、その場に応じてベストのネイルを選び出すという方法にシフトしました」
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