地方分散、自然共存型社会を もったいない学会会長・石井吉徳氏④

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いしい・よしのり 元国立環境研究所長。1933年生まれ。東大理学部卒。帝国石油、石油資源開発を経て、71年東大工学部助教授、78年教授、93年名誉教授。94~98年、国立環境研究所副所長、所長。98~2006年、富山国際学園で特命参事と大学教授。06年、もったいない学会創設、会長。

石油の生産がピークを迎え、食料危機、文明危機に陥りつつあるという話を前回しました。そのようなとき私たちはどうしたらよいのでしょうか。私は「もったいない」の心で新しい文明を構想したいと思っています。「脱石油、低炭素社会への転換」が、地球温暖化の視点から言われますが、そうではないでしょう。エネルギーの消費量そのものを減らす「低エネルギー社会」を目指すのが本質的です。

ポイントとなるのは集中から分散、「リ・ローカリゼーション」です。流体燃料である石油の不足は運輸を直撃し、グローバル化が衰退するからです。そこでローカリティを大事にする社会となります。まず地産地消。食べるものはできるかぎり自分の住む地域で収穫した農水産物にします。すると運搬距離が短くて済むので輸送エネルギーを減らせます。作る側も、高く売れるからと輸出用の果物や野菜を作るのではなく、地元の人が食べる物を作るのです。

人の絆を回復し、心豊かな社会を

また、地域ごとの多様な自然条件の活用も重要です。日本列島は、面積では世界61位ですが、海岸線の長さでは世界6位です。入り組んだ海岸線や湾は、船を利用するのに好都合。高速道路にあまり頼らず、鉄道網とともに海運を育てることも必要ではないでしょうか。

自然エネルギーは地域分散型で利用すべきです。たとえば私の育った富山は有数の急流河川を持ち、ダムなどを造らずに済む小水力発電に期待が持てます。しかし、国や自治体が持つ水利権の調整が難しく、なかなか普及しません。

一方、ドイツには小水力発電所が7500カ所以上もあるそうです。大陸の国ドイツは河川の傾斜が緩く、発電には本来向きません。が、連邦制なので、地域主体の創意工夫によって個人やコミュニティが発電しています。山岳国家の日本こそ地方分散、分権で小水力発電を広め、その発電所の建設や運営で雇用も増やしたいものです。

太陽熱を利用した温水器や太陽電池を家の屋根に載せ、エネルギーを家庭に取り込むことも有効です。地中熱の利用もよいでしょう。地面を10メートルほど掘れば、温度はいつも15℃ぐらいです。それを夏冬、ヒートポンプで利用するのです。

分散型の自然エネルギー利用は送電ロスを減らせます。要は一極集中をやめ、地方や家庭でできることは自分でやるという地方分散を進め、低エネルギー社会を実現することです。地方分散が無駄や浪費をなくすのです。そして人の絆を回復し、心豊かな社会を再構築しましょう。

週刊東洋経済編集部
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