石油減退が石油文明の崩壊へ もったいない学会会長・石井吉徳氏③

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いしい・よしのり 元国立環境研究所長。1933年生まれ。東大理学部卒。帝国石油、石油資源開発を経て、71年東大工学部助教授、78年教授、93年名誉教授。94~98年、国立環境研究所副所長、所長。98~2006年、富山国際学園で特命参事と大学教授。06年、もったいない学会創設、会長。

地球にある資源のうち、最もエネルギー収支比(入力と出力の比、EPR)が高い石油の生産がピークを迎え、減退している、という話を前回しましました。そのときに何が起きるか。私は「グローバリズムが終わる」と考えます。

今までは、物を船で運ぶコストは極めて安く済んでいました。石油をふんだんに使えるから、ブラジルの鉄鉱石を中国に持っていき、中国で加工した製品を世界中に運んでも、高いコストにはなりません。ところが、安く豊かな石油の時代が終わると、物の移動をできるだけ減らそう、となります。するとグローバリズムの典型である、安い商品を世界中から調達し低価格で販売するというウォルマートモデルも、石油ピークとともにピークを迎えるのです。

いちばん影響を受けるのが食料

産業のあり方も変わります。石油の用途は、運輸40%、化学用原料18%、鉱工業15%です。運輸の中心は自動車。石油が限界を迎えた今後、ガソリン車社会の存続が難しくなることは間違いないでしょう。

いちばん影響を受けるのが食料です。現代の農業は石油漬けだからです。肥料、農薬、機械に大量の石油を使い、食品加工、流通など、消費される食料エネルギー1キロカロリーに石油10キロカロリーを使っています。石油を食べているようなものです。

日本人への影響はさらに深刻です。日本は今、食料の6割を輸入しています。食料の重量に運搬距離を掛けた数字をフードマイレージといいますが、日本のフードマイレージは9000億トンキロメートルを超え世界一。国民1人当たりで計算しても世界トップ。石油がピークを迎えるということは、日本の食料調達が危機を迎えつつあるということなのです。

食料は人間の生存の基盤、その危機は文明の崩壊につながります。南太平洋のイースター島は、巨大なモアイを作るために森林を破壊し、土壌を喪失しました。資源崩壊の危機に備えず、最後の一木まで切り倒して食糧危機に陥り、人肉を食べるまでになって文明が崩壊しました。中米のマヤ文明も土壌喪失から食料不足に至り、互いに争い、崩壊しました。

ただし、その過程は都市部と地方で違ったようです。都市部はコーンに頼り切って土壌が崩壊、食料危機から武力抗争に。一方、地方は多様な農業に切り替えたので、土壌が維持され、最終的な崩壊は、都市部より1世紀も遅かったそうです。

石油ピークは食料危機を招き、文明の危機につながります。そうした状況下で、私たちはどうしたらよいか。それを次回話しましょう。

週刊東洋経済編集部
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