石油ピーク示すメキシコ湾原油流出事故 もったいない学会会長・石井吉徳氏①

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いしい・よしのり 元国立環境研究所長。1933年生まれ。東大理学部卒。帝国石油、石油資源開発を経て、71年東大工学部助教授、78年教授。93年退官し名誉教授。94年から98年、国立環境研究所副所長、所長。98年から06年、富山国際学園で特命参事と大学教授。06年、もったいない学会創設、会長。

石油はすでにピークを打った--このことは、日本ではなかなか理解されませんが、欧米では当たり前の事実です。米国のエネルギー情報局EIAのデータは、2005年が世界の石油生産がピークだったことを示しています。国際エネルギー機関IEAも、08年に楽観論を見直して石油ピークを認め、その後の石油減耗について警告しています。つまり石油の供給はすでにピークを打って減少を始めており、需要に追いつかない状態に入りつつある、というのが世界の常識なのです。

 地球上に石油は2兆バレルほどあることがわかっています。人類は現在までにほぼ半分を使いました。残りは約1兆バレル。しかし、それらは、条件の悪い深海底や僻地の小規模油田に存在しています。今までのような低コストで簡単に石油を採ることは難しくなっているのです。

危険なことをしなければ、石油が手に入らない

今年起きたメキシコ湾の原油流出事故は、このことを端的に示しています。石油ピークの典型的な証左です。かつての海底油田は、水深200メートル程度までの大陸棚から、せいぜい2000メートルほど掘った所にありました。ところが今回事故を起こした油田は、水深1600メートルの海底から、3800メートルほど掘り進んだ所にありました。掘管は5000メートルを超え、しかも掘削リグは海面に浮いています。リグが事故で沈めば、その下の堀管なども折れて落ちます。そんな危険なことをしなければ、石油が手に入らないのが現状なのです。オバマ大統領は事故後の演説で言っています。「結局のところ、石油は有限資源。陸や浅い海には、もはや油田を開発する場所はない」と。

事実、世界の油田発見のピークは1964年でした。その後も発見は続いていますが、その量は四十数年間、ほぼ一貫して減少しています。80年代以降は、消費を下回る量しか発見されていないのです。

石油は、太陽エネルギーによる光合成の結果である有機物が、何千万年、何億年の時間をかけて熟成されたもの。地下の熱や圧力など、地質的に難しい条件が整って初めて作られます。しかも、人間が採掘しやすい場所にあるのは限られています。世界最大の油田がある中東は、2億年前の大陸移動でできた極めて特異な場所。地球史上の僥倖に恵まれた油田は、ほかにはないのです。

こうした話をすると、太陽光や風力など新エネルギーの開発が進んでいるから大丈夫という人がいます。しかし、新エネルギーでは、「石油ピーク」の問題は解決できません。そのことを次回話しましょう。

(撮影:梅谷秀司)

週刊東洋経済編集部
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