きっかけは先輩の無茶ぶり「新しい点字」開発の裏 20代の若き発明家「112番目のアイデア」だった

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イベントでブレイルノイエの可能性を感じた高橋さんは、そこからフォントの改良を重ねた。当初はアルファベット版だけだったが、カタカナ版も作成。2018年3月、ブレイルノイエのプロトタイプをTwitterで紹介してみると、国内外から大きな反響があった。しかし同時に、厳しい指摘の声も寄せられる。

「最初にSNSで紹介したときは、賛否両論でした。『点字のルールがめちゃくちゃだから直したほうがいい』と怒られたりもして。でも、それが良かったですね。点字について正しく知ることができたし、さまざまな意見を取り入れながら、さらにブラッシュアップしていけたので」

点字は、計6つの点を一定の方式で組み合わせることで文字を表す。点の配置や間隔にはルールが存在し、少しでもそのルールから逸脱すると視覚障がい者は文字を読めなくなってしまう。高橋さんは点字への理解を深めながら、視覚障がい者がブレイルノイエを読めるように試行錯誤を重ねた。

「実際に視覚障がいの人に会ってブレイルノイエを触ってもらい、フィードバックをもらう機会を設けたりしました。点字のルールが思ったより難しくて、完成させるのは大変でした」

そして2018年夏、ついにブレイルノイエの完成形ができあがる。ルイ・ブライユが1825年に点字を考案してから約200年後のことだ。

ちなみに、「Braille(ブレイル)」は点字を開発したルイ・ブライユの名前が由来。「Neue(ノイエ)」はドイツ語で、”新しい”を意味する。「新しい点字」にふさわしい名を冠したブレイルノイエは同年、アメリカのデザインコンテスト「New York Design Award」や「GOV Design Award」で金賞を受賞する。

点字の文化や背景を正しく広める

ブレイルノイエは現在、渋谷区役所本庁舎や渋谷公会堂などの施設に採用されている。また、2020年5月にはファッションブランド「FRAPBOIS(フラボア)」とコラボし、ファッションにブレイルノイエを取り入れる試みも行った。

2018年の完成から約3年半、ブレイルノイエは社会実装のフェーズに入っているといえるだろう。高橋さんも普及状況を「最近は徐々に広まっている」と捉えている。が、彼はブレイルノイエの”スピード普及”には慎重姿勢だ。それはなぜか?

「ネットの”バズ”のような一過性の普及をしてしまうと、点字自体を扱ったことがないのにブレイルノイエを扱おうとする人が増えてしまう。点字のルールや書き方を理解したうえでブレイルノイエを使うのはいいんですけど……」

国内の視覚障がい者は約30万人で、そのうち点字を読める人は約12%と言われている。これは2006年に厚生労働省が発表した「身体障害児・者等実態調査」のデータに基づく数字だ。少し前のデータにはなるが、点字を読むのがいかに難しいことかを表している。

しかし、ブレイルノイエを利用しようとする人の中には、そうした点字の実態を知らずに「ただ単にブレイルノイエを導入すればいい」と考える人もおり、間違った広め方をしないための仕組みづくりも高橋さんのテーマだという。

「点字やブレイルノイエに対する認識を正しく積み上げていくことが大事」と高橋さん(写真:高橋鴻介さん)
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