「無限の欲望」追求がもたらしたもの
ルネサンス以降の近代社会が世界の「無限性」を前提に組み立てられてきたことは言うまでもないと思います。その発端は、コロンブスのアメリカ大陸発見でした。多くの民族が狭い大陸にひしめき合い、戦争を繰り返してきたヨーロッパの人々にとって、新大陸発見はまさに「無限」への可能性を切り開く一大事件でした。
「陸から海へ」。これが当時のヨーロッパの人たちの合言葉でした。それに続く、宗教改革や市民革命によって、人々の精神がローマ教会の支配から解放され、神に代わって人間が主人公の時代が到来したわけです。
資本主義の成立とともに、資本の増殖、富の蓄積こそが成功のあかしとされ、やればやるほど良いという「無限」を求める価値観が世界を支配するようになりました。
しかし、産業革命を経て人間の経済活動、工業生産が巨大化した結果、これが有限な地球の壁(資源、環境、エネルギー)に突き当たり、それが気候変動の激化や生物多様性の減少となって人類文明を危機に陥れたのです。このため、人類にとっては、生活スタイルを「無限」の追求から「有限」への回帰に転換することが不可欠になっています。
このことをアメリカの政治学者パトリック・デニーン『リベラリズムはなぜ失敗したのか』は、簡潔に表現しています。「あらゆる障碍からの解放は二つの単純な理由で幻想に終わる。人間の欲望には限りがないということと、世界には限りがあるということだ」。
つまり、「無限」と「有限」が正面衝突し、それが深刻な文明的問題を引き起こしている。このまま、「無限」を追求する姿勢を改めないと人類は滅びてしまう、というわけですね。
したがって、われわれは「無限」の拡大を前提とする現在の社会システムから、「有限」を前提とした社会システムへ、社会のあり方、人間の価値観、資本主義そのもののあり方を変える必要があります。世界が「有限」という前提に立った場合に、われわれは何をするべきなのか、どういう社会を構築すべきなのか。また、それはどうすれば可能なのか。これこそ、現代の人類が抱えている最大の課題です。
しかし、「何をすべきか」については、実は誰もがその答えを知っているのではないでしょうか。つまり、「地球の有限性」を自覚し、人間の欲望を抑制すること。物的生産の量的拡大を抑え、精神的な豊かさを追求するように経済社会の仕組みと価値観を変えること。さらには、平等な社会を構築し、自然と共存共栄できる世界をつくること。こうしたことに取り組む必要があることについては、世界中の多くの人が賛同しています。
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