最後に、現代の大きな問題として忘れてはならないのが、世界的規模での巨大な富の偏在、格差の固定化です。これは資本主義システム、あるいはグローバリゼーションのシステムそのものに深く組み込まれていて、一国の政府がそれを止めようと思っても、なかなか止まらないレベルの問題です。
どれだけ格差が急速に拡大しているかを見るために、世界的な富の偏在を示すデータを示すことにします。2016年における世界の大富豪トップ8人の資産総額を合計してみると、その額は実に、地球の貧困層の半数、約36億人分の資産総額に匹敵するという統計です。驚くべき数字です。たった8人の大富豪の資産が36億人分の資産に相当するというのですから。
さらに、驚くべきなのは、それからわずか5年後の2021年の世界の富豪トップ8の資産総額を調べてみると、2016年当時よりもなんと2.3倍も増加しているのです。その間、世界の貧困層の所得はほとんど増えていないにもかかわらずです。この世界の大富豪8人に50%の富裕税を課することができたら、世界の貧困問題はたちどころに解決できるのではないでしょうか。
「格差是正」が「精神革命」のトリガーになる
この数字に象徴されるように、現在のグローバル社会は格差拡大が明らかに加速しています。世界の富豪トップ8には、アマゾンのジェフ・ベゾス氏、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏、フェイスブック(メタ)のマーク・ザッカーバーグ氏などの大富豪が名を連ねているのは予想どおりです。なぜ彼らはたった5年で、天文学的な富の増殖を行うことができたのでしょうか。
その理由の一つは、GAFAをはじめとするIT関係企業のほとんどが、「地代を払っていない」からです。ここでいう「地代」はもちろん土地の賃借料ではなく、グローバルな「サイバー空間」に対する使用料金のことです。彼らが「地代」を払わないのは、「デジタル課税」などの課税の仕組みが確立していないからです。彼らはただで(地代を払わないで)「サイバー空間」を自由に使うことができるので、いくらでも儲かるという仕組みになっているのです。
もちろん、EUをはじめ世界各国は何とか「サイバー空間」の使用料を「デジタル税」「個人情報使用料」といった形でGAFAなど世界のIT企業に課税しようと躍起になっていますが、今のところ、有効な課税の方法が確立できていない状況です。もし適切な「デジタル課税」によって、(あるいは、富裕層に対する富裕税の導入でもよいのですが)多額の税収が得られるならば、そして、それを途上国における貧困問題や環境対策に振り向けることができれば、現代世界が抱えている南北問題を解決する大きな助けになるでしょう。
また、そのようなことが可能になれば、気候変動問題は解決できると思うのです。なぜなら、途上国がCO2削減などになかなか協力しないのは、巨大な格差をそのままにしたままで、自分たちだけが経済成長をあきらめるのは不公平だという思いが強いからです。したがって、「デジタル課税」や「富裕税」によって巨額の資金を徴収し、途上国へ潤沢な支援金を交付することができれば、途上国の不満を和らげ、CO2対策についても容易に国際的合意が得られるのではないでしょうか。
「無限」から「有限」への回帰。これが今日のテーマでしたが、それには世界の人々の意識革命、精神革命が必要です。そしてそれを可能にする一つの有力な財源は本格的な「デジタル課税」、あるいは、大幅な「富裕税」の導入にある。それが今日申し上げたかったことのひとつです。
紀元前500年に世界各地で起きたような「精神革命」がいつ起こるのか。それはわかりません。しかし、それほど時間的猶予がないことも明らかでしょう。地球はそんなに長くは待ってくれないからです。それがどういう形でいつやって来るのかは予測できません。
しかし、この意識変革、精神革命はいつの日か必ずやってくる。そう私は信じています。さまざまな危機に直面し、人間はつねにそれに立ち向かい、新たな可能性を見出してきました。このような変化こそ、人間の歴史そのものだからです。
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