起きて当たり前だったリスク
2020年初めに「SARS-CoV-2」と名づけられた新型コロナウイルスは、「ブラックスワン(黒い白鳥)」ではなかった。予想不可能で起こりえない出来事ではなかった。「グレーリノ(灰色のサイ)」だった。つまり、起きて当たり前とみなされていたにもかかわらず、軽視されがちなリスクだったのだ。
そして、ついに物陰からその姿を現した時、グレーリノの新型コロナウイルスは大惨事の始まりを告げているように見えた。
ウイルス学者が予測していたとおり、強い伝染力を持つインフルエンザに似た感染症だった。発生源になると危惧されていた場所のひとつで発生した。東アジアのあちこちに広がる、野生生物と農業と都市人口とが高い密度で交わる地域である。
そして予想どおり、交通や運輸のグローバルチャネルを通じて世界中に広まった。率直に言って、ついにその時が来たのだ。
経済分野の「チャイナショック」については、活発な議論が交わされてきた――2000年代初めのグローバリゼーションの高まりと、中国からの輸出の急増は、西洋の労働市場に大きな影響を与えた。
新型コロナウイルスは、猛烈な勢いで襲った「チャイナショック」だった。シルクロードの時代、感染症はユーラシア大陸を東から西へと移動した。隊商が交易路を行き交う速度は遅く、感染の拡がりには限度があった。大航海の時代になると、感染者は旅の途中で命を落とした。
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