この時期の競馬界は、総参加人数が増えるにつれて、売得金も増えるというトレンドになっている。雇用者数が増えるにつれて、個人消費もそれなりに伸びた、といえるだろう。
そこへやってきたのが2020年からの新型コロナ危機である。JRAの売得金はなおも3%台の伸びを続けているが、総参加人数は減っている。
実際に競馬場へ足を運んだ人の数は、2021年には実に72万人にまで減った。コロナ禍以前はコンスタントに600万人以上が訪れていたわけだから、まさしく激減である。その分の売り上げをどこから獲得したかといえば、もちろんネットユーザーからである。
ここではたと思い当たるのだが、競馬界は昔からネットやゲームの世界と親和性が高かった。競馬ファンの中には、かなり以前からJRA-VANやnetkeiba.comを使い、インターネットから情報で得ていた人が少なくないだろう。だから即PATやJRAダイレクトを使った馬券購入も、さほど心理的抵抗がなく広がった。
極端な話、今やスマホを使えば、職場からでも馬券が買えてしまう。しかも最近では、海外の競馬や地方競馬まで簡単に買えるのだ。
そして以前は、ダビスタこと『ダービー・スタリオン』が競馬ファンを増やしたように、最近では『ウマ娘』が新たなファン層を開拓している。JRAがちょっと前まで、若いタレントを使って「競馬場はこんなに楽しい」というCMを流していたけれども、実際に増えたファンは「インドア派のゲーム好きの若年層」だったと考えると、ちょっと愉快ではないか。
競馬界はDXの勝ち組に
ともあれ、パチンコなどほかのギャンブル産業が軒並みコロナ禍で逆風を受けた中にあって、競馬界はDX(デジタルトランスフォーメーション)の勝ち組となった。
新型コロナウイルスは、大勢の人が密集すること自体をリスクとしてしまう。その点、「おうちで競馬」している分にはリスクがないし、今の情報環境であればほとんど現場で馬券を買うのと変わらない。パドックだって自分の目で判断するよりも、グリーンチャンネルの専門家が推奨する馬のほうが(悔しいけど)よく当たるのだから。
さて、これでJRAは万々歳なのだろうか。残念ながら「ネットにアクセスできない」競馬ファンは少なくない。競馬場に行きたくても、今はその入場券さえネット予約しないと手に入らない。
「せめて有馬記念だけでも行きたいけどなあ……」と嘆いている高齢者は、ウチのご近所にも結構いるのである。岸田文雄内閣の「デジタル田園都市国家構想」ではないけれども、JRAも「誰一人取り残されない社会の実現」が必要なんじゃないだろうか。
12月28日、2021年最後のG1レース、ホープフルステークスで筆者は久しぶりにウインズ浅草を訪れてみた。最近のウインズでは、馬券の発売や払い戻しはしているのだが、「密」を避けるために実況中継はやっていない。だから来場者はまばらで、ファンが静かに馬券を買って去っていくという感じであった。筆者も久しぶりに紙の馬券を買ってみたが、なんとマークシートの書き方を忘れていたことに自分でも驚いた。
ところが、ウインズから道を隔てた浅草の飲み屋さんでは、競馬中継を放送しているではないか。中ではマスクをした大勢のお客さんたちが、競馬新聞を片手に盛り上がっていた。レースのファンファーレが鳴ると、軽く歓声が上がる。
おお、そうだ。これだ、これを忘れていた。多くの人と一緒に出走を待ち、騎手に声援を送り、お目当ての馬に祈りを捧げる。競馬ファンの「聖なる時間と空間」がそこにはあった。
「おうちで競馬」もいいけれども、多くのファンが集う競馬の楽しみを忘れていた。今は言っても詮ないことながら、またいつの日か数万人のファンの1人になって、競馬場で思い切り大声を上げてみたいものである(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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