「STAP問題」、防ぐには仕組みが重要 『嘘と絶望の生命科学』を書いた榎木英介氏に聞く(下)

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理研がSTAPのときに報道を使って大々的に公表したのは、それを見た政治家を通じて大型の予算の獲得を狙ったものだと見ることができます。通常の研究費配分についても、研究者同士で審査をさせていると、関係のある研究者に手厚くなることは否定できない。そういったことをなくし、公平な予算配分、研究費の配分を行うために、研究者の片手間仕事ではなく、科学を知っている人に専任させる。中立で横断的な権限を持った組織に、目利きとして専門知識を持ったポスドクを置く。文科省の概算要求の中にファンディングのリサーチアドミニストレーターを置くという項目がありますが、こういうところにポスドクを活用できます。

NIH(アメリカ国立衛生研究所)でも、Ph.D.を持つが研究をしない専門官が、予算配分などの業務に専任していると聞きます。ポスドク問題の解決手段のひとつにもなりますし、研究不正の対応や研究費配分の公平性を担保することにも貢献できます。

若手科学者の希望を失わせないために

――透明で公正な競争環境をつくることが、研究不正をなくす根本治療になるのですね。

でも、これだけでは不足なんです。いま科学界で最大の問題は、若手の希望が失われているということです。予算に縛られ、研究室のボスに縛られて、科学者の自律が失われています。公正な競争ができる環境を整えることによって、新しい体制を作り出すことが必要だと思っています。

研究者の世界のなかだけでなく、科学界で切磋琢磨して磨かれた人材に活躍してもらえる社会体制を作っていく。何も博士を特別扱いしろ、というわけではありません。博士号をとるほどの人材を生かすことで、新たな経済成長ができるのではないか。そういった試算もしてみたいと考えています。

もう一つは、開かれた研究社会を作るということです。これまで大学や特定の研究機関が「知」を独占してきました。若手の研究者はその中でしか生きられないと思い込み、煮詰まった状態になっています。不正をしてでも生き残ろうという人が出てくるのもこういう背景があるからです。

科学研究を閉じた世界にせず、オープンアクセスにして、科学のすそ野を広げることが、この閉塞感の突破口になると考えています。最先端の英知を求めるだけが科学ではありません。大がかりな設備も高価な試薬も必要ない科学もある。現に科学者の中にも自宅の一部屋をラボに改造し「DIYバイオ」を実践している人もいます。時間貸しの貸しラボを作ろうとしている人もいる。そういう場所を使い、必要になればクラウドファンディングで資金を調達し、地域に根ざした研究をする。趣味として余暇に行う研究であれば不正も出世も関係ありません。

純粋な科学が身近にある、そんな社会になっていけばいいなと思っています。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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