迷走する理研、エリート研究所の危機 「科学者の楽園」は何につまずいたのか
「『ネイチャー』誌に発表している論文はいくつもある。理研はなぜあれだけをクローズアップしたのか」。今年3月まで理化学研究所に勤めていた元職員は、STAP論文をめぐるあの騒ぎがいまだに信じられない。
理研の調査委員会が論文を不正と認定したことに対し、小保方晴子研究ユニットリーダーは不服申立を行った。審査の結果、5月8日に理研は再調査しないことを決め、論文の取り下げを勧告。幕引きを急ぐかのような動きだが、小保方氏を含む研究者らに対する処分や再発防止策の策定など、今後の課題は山積している。
国内随一の自然科学の総合研究所で、さらなる躍進を狙う理研に、STAP問題は最悪のタイミングで起きた。
特定法人化は先送り
昨年10月23日、霞が関で開かれた有識者懇談会で、理研の野依良治理事長は熱弁を振るった。そこで訴えたのは、費用対効果や業務の合理化を求められる独立行政法人(独法)の枠組みとは違った、科学技術イノベーションを最大化できる、自由度の高い新法人制度の必要性だった。
「理事長は3年ほど前から自民党の部会などにも出向き、新制度の必要性を訴えてきた」(理研職員)。安倍政権下で議論が進み、昨年末には独法改革とともに、世界レベルの成果を目指す「特定国立研究開発法人(特定法人)」を設置することが決定。独法の中で産業技術総合研究所と理研が候補になった。
だが今回の騒動を受けて、菅義偉官房長官は、「一連の問題でメドが立たなければ閣議決定しない」と述べ、4月15日に予定されていた国会への関連法案提出は見送りに。法案の準備をしていた内閣府の担当者からすれば「青天の霹靂」。事態収拾の糸口は見えず、理研は迷走している。