迷走する理研、エリート研究所の危機 「科学者の楽園」は何につまずいたのか

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4月9日、大阪市内で弁護士とともに会見した小保方氏(撮影:ヒラオカスタジオ)

理研の研究員は、「数ある中の一つの研究所、さらに一つのユニットの問題で、理研全体が悪く言われることが残念」と不満げ。だが、STAP論文を大々的に発表したのは理研だ。今回の問題では研究所のガバナンスやマネジメントの難しさを露呈した。

理研は、昨年4月の組織改編で研究センターの上にあった研究所を廃止。理事長と研究センター長の指揮命令系統が直結する形にした。それでもSTAP問題が起きたのだから、プロジェクトが数多くあり、研究内容も複雑化する中、理事長がすべてのセンターに目を光らせるのは難しい。

もっとも、複雑な研究に果敢に挑戦し、成果を上げてこそ、理研の存在意義も高まる。再生医療など生命科学分野の世界的な競争が加速する中、CDBを中心とした生命科学分野では、分野の異なる研究員が協働する融合的な取り組みを活発化してきた。だがそれは、「STAPのような新分野は先駆者や指導者がおらず、監視の目が行き届きにくいリスクがある」(角南教授)ということにもなる。

組織の変革が必要

こうしたリスクの低減をガバナンスの強化と考えれば、「組織をオープンにして研究員同士の議論を活発化させることが重要。自分の研究を人に話せば第三者の目が入り、一人で閉じこもらなくなる。上層部は、センター長と理事長のコミュニケーションを円滑にする必要もある」と、元東北大学大学院工学研究科教授で、政府の総合科学技術会議議員の原山優子氏は話す。文部科学省の業務評価や理研が設置する外部アドバイザーとは別に、新たな監視体制を構築する方法もあるはずだ。

理研が日本の科学技術力の底上げに果たしてきた役割は大きい。野依氏が目指す「世界に伍す研究所」にしていくためには、特定法人化の仕組みだけに頼るのではなく、今回の問題を受けて、自らのあり方を見直し、組織を変革し続けることが重要だろう。

週刊東洋経済2014年5月17日号〈5月12日発売〉の「核心リポート」では8ページに渡って理研の問題を分析しています。当記事はそのうちの一部です)

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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井下 健悟 東洋経済 記者

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いのした けんご / Kengo Inoshita

食品、自動車、通信、電力、金融業界の業界担当、東洋経済オンライン編集部、週刊東洋経済編集部などを経て、2023年4月より東洋経済オンライン編集長。

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