――どのように変えればいいのでしょうか。
評価システムを変えることです。今は、有力な論文誌に掲載されれば、そのこと自体が評価を高めますし、マイナーな雑誌であっても論文数が多ければ評価される。引用数が多いことも重要なファクターです。論文の内容そのものよりも、こういったインパクトファクターが重視されることに問題があるのです。
ネイチャー誌は商業誌ですから、広告費を得るために、どうしてもインパクト重視になりがちです。生態学や進化学など、研究者が少なくインパクトが小さいためにほとんど掲載されない分野もあります。商業誌の判断としては正しいのだろうが、それによって科学の価値を判断されてしまう状況は、非常に危ういと言えます。サイエンス誌はAAAS(全米科学振興協会)というNPOが出版しており、まだバランスが取れていると思いますが、それでもネイチャー誌と競ってインパクトの高い論文を掲載しようとしています。
ただ、『PLOS ONE』をはじめとする、オープンアクセスジャーナルという新しいスタイルが現れています。『PLOS ONE』は、論文著者が1350ドル(15万円弱)の掲載料を支払い、査読を経た論文はインターネット上で無料で公開され、誰でもアクセスできる。論文完成前に一度オープンにして査読を受けるしくみで、評価システムもきちんとしている。
学会を活用することもできますが、学会を離れて若い世代が建設的に議論をする場があってもいい。STAP論文でもそうでしたが、web上で匿名で多くの科学者が「査読」しオープンに議論する、ソーシャル査読も実際に行われています。こういったweb社会のしくみをうまく使っていくことは、今後より重要になっていくと思います。
――有力誌に掲載するには30万~50万円ほどかかるうえ、購読者しか読めません。査読は科学者のボランティアと聞いているのに不透明に感じますから、期待できますね。
ただし、ビジネスモデルとしてはなかなか難しいようですし、ニセサイトの問題が起きています。査読システムもなく、掲載料を払ったあとに雑誌そのものがなくなってしまった、ということもおきています。信頼性の高いところを選ぶ必要があります。
日本にも研究公正局の設置が必要
――もうひとつ、不正への対応が、大学や研究機関によってかなり幅があるように見えます。統一的な不正防止機関が必要なのでは。
研究不正防止策の例としてアメリカの研究公正局があげられますが、これは取締機関ではありません。倫理教育を重視し、調査や処分についての統一基準を作っています。また、不正が起きたときには事例を実名入りで記録し、モデルケースとして公表しています。次に起こさないためにどうするか、が重要なのです。
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