「STAP問題」、防ぐには仕組みが重要 『嘘と絶望の生命科学』を書いた榎木英介氏に聞く(下)

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榎木英介(えのき・えいすけ)●病理・細胞診専門医。1971年神奈川県生まれ。1995年東京大学理学部生物学科動物学専攻卒、同大学院博士課程中退 後、神戸大学医学部医学科に学士入学。2004年医師免許取得、2006年博士(医学)。近畿大学医学部病理学教室講師。科学技術政策や、ポスドク問題に 関心を持ち、科学コミュニケーションに関する活動を行う。著書に『博士漂流時代』(DISCOVERサイエンス、科学ジャーナリスト賞2011受賞)、 『医者ムラの真実』(ディスカヴァー携書)、『嘘と絶望の生命科学』(文春新書)など。

日本でも、研究公正局はぜひ作って欲しいですね。STAPについても、問題を矮小化せず、克明に記録していくことが必要なのですが、今のところそういう機関はありません。倫理教育については日本学術会議などが議論しているところですが、調査や処分は統一されておらず、大学や研究機関によってまちまちです。記録も内部の記録だけでは不十分です。

医療の現場では、事故には至らないまでもヒヤリ・ハットは起きます。こういった事例を集めて分析し、次に起こさないために記録しています。アカデミアでも同じようなことをする人たちが必要なのです。

日本の科学界には、いまやっていることを客観的に批判できる人がいません。STAP問題によって科学がハリボテではないかという疑念が一般の中にも生まれましたが、反動でまたiPSがもろ手を挙げて歓迎される。網膜再生の高橋政代先生が「リケジョの星」などといわれるようでは、STAPの轍を踏もうとしているように見え、非常に違和感があります。

科学を客観的に監視するシステムが必要

――メディアも含め、一般社会の科学リテラシーが低いという問題もあります。

ですので、客観的に科学を批判し監視する、現在のような科学者がやりたい放題の社会ではなくするために、ポスドクたちに、発信してもらいたいのですね。アメリカのAAAS(全米科学振興協会)のように、どこにも属さずに独立で強力な権限を持つ組織を立ち上げて、専門知識を持つ人たちに、社会の中から科学に貢献してほしい。単なる批判ではなく、建設的な意見を言っていく。ネット上でも匿名で意見を言う人も増えていますので、そういう人たちもうまくまとめていく。一般の人たちにも関心を持って、声をあげていただきたいですね。

ツイッターのようなところに現れてくる、社会の中にある批判や疑問、要望を吸い上げてビッグデータに集約し、科学の世界に反映させるような方法が必要だと考えます。

――こういった仕組みを作るのに、ポスドクはうってつけですね。

研究公正局以外にも、専門知識を持つポスドクにふさわしい仕事はあります。現在は政治が決めているような科学の予算配分、科研費の配分などのファンディング事業にも、専門知識があり、どの研究室にも利害関係を持たない独立の存在が必要です。

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