第4に、ターゲティングした重要品目のうち、平時から確保すべきコアキャパシティと有事即応のサージキャパシティとを分類し、備えを変える。医薬品は品質確保と安定供給が極めて重要であり、毎日服薬が必要な薬の欠品は許されない。厚労省は安定確保が求められる医療用医薬品について2020年9月に体系的に整理し、特定した。最も優先して取り組むべき安定確保医薬品は21成分あり、これらの供給能力はコアキャパシティである。また医療物資や医療機器についても、マスクのようなコモディティであっても政府がサージキャパシティとして有事即応できるよう定期的に点検しておくべきだ。
プル型インセンティブ
第5に、政府の支援はプル型インセンティブ、なかでも有事の買い上げ、平時の備蓄と生産設備維持を軸にして、日本が競争優位を持つ技術・品目を死守するとともに、サプライチェーンの脆弱性解消を目指すべきだ。アメリカは国防生産法を発動し企業に人工呼吸器やワクチンの量産とアメリカ政府への優先配分を要求した。政府が有事の買い上げを約束できなければ企業として思い切った投資はできない。次の健康危機では機動的に重要品目を量産し政府が買い上げできるよう日本版国防生産法の制定を検討すべきだ。製薬企業が有事の量産体制を維持するには、政府による継続的な支援とCDMOの育成も重要である。
政官産学をつなぐ人材の重要性
第6に、勝ち筋になる技術を目利きでき、政官産学を結び付けられる人材が不可欠だ。政府一丸の研究開発プロジェクトを立ち上げ、政府資金とともに民間のリスクマネーも呼び込みプッシュ型インセンティブで社会実装を促すべきだ。mRNAワクチンほどのイノベーションを創出できた国は世界のパンデミック収束に貢献でき、国富も増大させることができる。日本が戦略的不可欠性、さらに供給網でチョークポイントを握った技術は、日米同盟にとっても重要な資産となる。
ただし、1990年代後半以降、日本の半導体産業が陥った日の丸自前主義の失敗を繰り返してはならない。いま研究開発の主流になっているオープンイノベーションや医薬品研究開発のエコシステムには、国境がない。現に、世界で最初にイギリスで接種されたmRNAワクチンは、独のバイオベンチャー、ビオンテックの研究開発に基づきアメリカのファイザー社が生産したものだった。
スタートアップは失敗する確率が高い。アカデミアのシーズは市場化まで時間を要する。ポートフォリオを組み、パイプラインにできるだけ多くの候補が並んでいる状態が望ましい。経済安保をめぐる危機感と国家観を共有できる起業家や研究者を見出し、アントレプレナーシップや研究者の志を尊重しつつ社会実装を後押しすべきだ。
現在進行形のコロナ危機、そして次なる健康危機に備え、日本は情報と政策を統合し、政官産学で取り組むべきだ。健康危機領域の経済安全保障には、国民の命と健康がかかっている。
(相良 祥之/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員)
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