第2に化学、生物、放射性物質、核による武力攻撃やテロ、すなわちCBRN事態だ。原子力事故や、北朝鮮の大量破壊兵器による攻撃も潜在的な脅威である。
健康危機領域の重要品目
経済安全保障が健康危機領域で取り組むべき重要品目は3つある。
1つ目が医薬品である。ワクチン、治療薬、そして原薬(医薬品の有効成分、API)、製造に必要な原材料・資材等が含まれる。原薬は主に中国やインドで製造されており、原薬のもとになる原料は多くを中国に依存している。
2つ目が医療物資・機器であり、マスク、ガウンなど個人防護具(PPE)、アルコール手指消毒剤などが該当する。
3つ目に検査機器と診断薬(検査試薬)である。
コロナ危機ではマスクやワクチンをめぐって争奪戦が起きた。注目すべきは、争奪戦の対象が、この2年間で目まぐるしく変わってきたことだ。ワクチンは製造能力が大幅に強化されたことで供給そのものより、先進国と途上国の間での在庫の不均衡が課題になっている。そしていま先進国は飲める治療薬の確保を急いでいる。
このように健康危機領域の重要技術・品目は、脅威の内容、マーケットにおける需給、特定の国への依存度などにより、危機の最中にもダイナミックに変わっていく。
医薬品開発製造の現状
しかし日本の製薬企業が機動的に対応するのは容易ではない。米欧日とも経済安全保障の重点領域として医薬品に注目するが、欧米に比して日本は劣勢である。医療用医薬品の世界売り上げトップ100品目のうち49をアメリカ、40を欧州の品目が占め、日本はわずか9品目にとどまる。
また、半導体業界において台湾TSMCが受託製造で地殻変動を起こしたのと同様に、医薬品でも受託開発・製造企業(CDMO)が急伸している。世界トップはスイスのロンザ、第2位は韓国のサムスンバイオロジクスで、両社で世界の医薬品受託製造能力の5割を占める。
2021年5月、文在寅大統領とバイデン大統領の米韓首脳会談にあわせ、サムスンバイオはアメリカのモデルナと新型コロナ向けmRNAワクチンの受託製造契約を締結、サムスンバイオは10月に韓国でワクチンの出荷を開始した。モデルナはアメリカDARPAの研究開発支援を受けていた。アメリカが開発し、韓国が製造するmRNAワクチンはアジアのブースター接種需要を支えることだろう。他方で、日本はmRNAワクチンを輸入に頼っている。
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