「中学から料理担当」女性が病床の母にかけた言葉 娘に料理を任せた母は入院中もお調子者で…

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そんな調子で闘病しつつ、襟子さんは数年入退院を繰り返したのち、若くして亡くなったという。一方、幸雄さんはもう少し長生きして、数年前に死去。今度は脳溢血だったそうだ。

今では「料理ができて良かった」

その後、公務員の夫と結婚して、1男1女をもうけた千鶴さん。派手好きな両親を見てきたせいで、夫には堅実な人物を選んだが、これが正解だった。子供たちも成人し、平凡ながらも幸せな日々を送っているという。今回の取材で、幼少期から短大生にかけての人生を語ってもらったわけだが、自分の境遇について千鶴さんはこう語る。

「当時は、私みたいに家の手伝いをさせられてた子供も結構いた気もするんですよね。そんなに珍しくはなかったんちゃうかな? でも、当時はそりゃ嫌でしたよ。習い事もさせてもらえなかったし、友達と遊びたくても遊べなかったから、『なんで私が料理なんかせなアカンの……』と恨めしく思ったこともあります」

しかし、恨み節100%かというと、そんなこともないようだ。

「今となってみれば、料理ができて良かったとも思いますね。飢えた子供時代があったからこそ、自分の子供たちにはしっかり料理を作ってあげられましたから。

それに、家族だけじゃなく、外での人間関係にもいい影響を及ぼしてます。趣味のヨガ友には年下の子たちも多いんですけど、炊き込みごはんとか、練習前につまめるちょっとしたモノを持っていくとすごく喜んでくれるんですよ。今の若い子は、おにぎりを握るのも面倒らしくてね。やってること、大阪のおばちゃんでしょ?(笑)。

でも、そんなきっかけでも仲良くなれるのは嬉しいことですからね……そう思うと、お母さんにも少しは感謝してもいいのかもしれませんね」

人が料理をするようになる経緯はさまざまだ。千鶴さんのように、親が料理しないから自分がするようになるケースがあれば、料理する親の背中を見て料理するようになる人もいるし、逆に親がしてくれるから「我関せず」なままの人もいる。この記事を読んでいる読者の中にも、自分の子供に料理を覚えさせたい人がいるかもしれないが、正解はその人次第なのだろう。

ただ、千鶴さんの話を聞いて感じたのは、母親が放任主義である一方で、褒めるときは褒めていたということ。お調子者ゆえ、また自分が楽するため……という背景もあったかもしれないが、少なくとも40年の時を経た今、千鶴さんにとってはいい想い出になっている様子だった。

本連載「忘れえぬ『食い物の恨み』の話」では、食べ物にまつわる積年の恨み、トラウマをお持ちの方からの体験談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
岡本 拓 編集者・ライター

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Taku Okamoto

編集者・ライター。早稲田大学文化構想学部卒。ソーシャルゲーム会社(半年)、某ネットニュース編集部(4年)を経て、フリーランスに。2021年12月から東洋経済オンライン編集部のメンバー。「奨学金借りたら人生こうなった」「チェーン店最強のモーニングを探して」などの連載を担当。会社四季報では外食業界を担当。

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