東京都内にあるIT系のA社では、「自治体での接種が受けられない」といった従業員の要望を受け、他社と合同での職域接種の実施に踏み切った。
申請は受け付け開始から間もなく行ったが、厚労省からは「承認が遅れている」というメール案内が来るのみ。接種開始を想定していた8月中旬までにワクチンが届くのか、わからなかった。
そして7月、社員やその家族の接種予約を一通り受け付けた後で、開始予定日にワクチンが届かないと判明。実施は延期せざるをえなくなった。結局、届く日程が確定したのは8月23日。調整を行った担当者は「情報がなく、ただ待つしかなかった」と振り返る。
相談態勢も不十分だった。申請に関するやりとりは厚労省と行う一方、ワクチンの到着時期についての問い合わせは経済産業省が相手となる。前述の厚労省からのメールには問い合わせ先すら記載されておらず、A社の担当者は先行して職域接種を行っていた企業伝いに聞いた番号にかけた。
こうした問い合わせの中で、「担当が違う」とたらい回しにされる経験をした担当者も少なくないようだ。
健保連では国が発信する情報を整理し、組合や全国の事業所へ共有した。これまでに3400件近くの問い合わせにも対応。職域接種開始当初は厚労省に電話が通じず、健保連への相談件数は膨らんだという。
独自マニュアルを他社にも提供
混乱が目立った一方、社内の技術や経験、リソースをフル活用した企業では、大規模な職域接種が実現した。
楽天グループでは1日約5000人の規模で、本社のある東京と、仙台、福岡での職域接種を実施。楽天は職域接種に先立ち、2021年3月から神戸市での自治体接種を運営。その経験を職域接種に生かしたという。
知見を各会場で共有できるよう、受け付けから接種後の情報管理までの一連の対応を細かく記載した120ページ超のマニュアルも作成した。
接種の各工程を時間を測りながら何度もシミュレーションし、時間短縮できるよう人員配置を工夫する、予診票の内容によって被接種者が持つファイルの色分けを行い、どのレーンに案内するかを視覚的に把握できるようにするなど、独自の改善策も加えている。
これまでに企業や組合、自治体などから「運営の仕方を教えてほしい」と問い合わせがあり、30カ所程度にマニュアルを提供したという。
同社は職域接種の枠を取引先企業社員や地域住民にも徐々に開放したが、これらの接種も会場スタッフ、備品などにかかる費用は楽天が負担している。東京の本社会場では、1日200人以上の社員やスタッフを動員した。「人件費に加え予約システムの運用・管理費など、負担は決して少なくない」(同社広報)。
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