日本経済は、戦後、市場メカニズムを活かして、いち早く経済成長率を高めることに成功した。成熟した日本経済にとって、供給能力を超えた建設業への歳出拡大や、政府予算の「成長枠」への歳出拡大が、本来の成長戦略と言えないのは明らかだろう。2014年4月に消費増税を先行させてしまったことで、第2、第3の矢が抱える危うさがだけが強まっている。
第1の矢つまり、金融緩和の強化がもたらした景気回復と脱デフレによって、何とか日本経済は復調している。だが、それ以外の矢については、日本経済復調を阻害する要因になるリスクが高い。2014年に入ってから、日本株のリターンが、世界の中で突出して悪いのは、経済正常化を目指すアベノミクスの軸が振れただけではなく、その弊害を市場が懸念していることが大きな要因である。
海外で増す、アベノミクスへの疑念は正しいか
ところで、海外メディアにおいてもアベノミクスに対する疑念が報じられるようになっている。8月26日付け英フィナンシャル・タイムズにおける「アベノミクス、的を外す矢」との論説では、投資家がアベノミクスに対して懐疑を抱いていることが紹介されている。筆者とは見解が似ている部分がある。
ただ、同論説においては、「金融緩和政策を含めた効果が怪しくなっている」、と妥当ではない分析が行われている。具体的には、4~6月期のGDP成長率が大幅なマイナスとなり、一方でインフレ率が上昇している状況をうけて、日本では「スタグフレーション」が起きていると診断しているのである。
「インフレ率が上昇して、一方で経済成長率が下がる」というスタグフレーションは、あってはならない経済状況だが、本当に今はフィナンシャル・タイムズが指摘するようなスタグフレーションなのか。
まず、4~6月期の経済成長率が落ち込んだのは、消費増税による駆け込みの反動減に加えて、増税幅は大きすぎたので家計の実質所得が大きく目減りしたことで説明できる。つまり、大型増税という景気引き締め的な財政政策がもたらした、総需要抑制の必然的な結果である。成長をストップさせるブレーキを踏んだための景気減速だ。そしてインフレ率の上昇についても、消費増税によって2%程度表面上のインフレ率がかさ上げされたが、これも消費増税がもたらした。第二の矢が逆回転してしまったので、量的質的金融緩和の景気刺激効果が、剥げ落ちてしまったということである。
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