「呪術廻戦」に描かれた"呪い"のルーツを紐解く のろい?まじない?呪いとSNSに共通する特徴

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このように『呪術廻戦』では、古典に記された呪術をモデルにしています。しかし、呪いは歴史上あった過去のものではなく、現代社会にも多く存在します。

『呪術廻戦』では、呪いは「呪霊」と呼ばれる化け物として現れます。呪霊は人間の「負の感情」から生まれる存在です。この「負の感情」は、時として呪いというアクションとして実行されることがあります。そこで現代において呪いに用いられるものがSNSです。

呪いとSNSに共通する特徴

上司への愚痴、仲間への中傷、社会への不満など、日々SNSには呪いの言葉があふれています。呪いとSNSは結びつくイメージはあまりないかもしれませんが、呪いとSNSには同じ特徴があります。呪いもSNSもあくまでも自分発信のものであり、呪われている相手はその事実を知らない、という点です。

匿名性のあるSNSでの呪いの言葉の発信者の身元は隠されたままです。しかし、自分についての悪意のある書き込みをされたものは少なからず心身に悪影響を受けます。平安時代に生まれた最も有名な呪い・丑の刻参りでは、藁人形に五寸釘を打ち込む姿は決して見られてはいけないとされます。

『御代参丑時詣』。丑の刻参りは誰にも見られず呪いの儀式をする必要がある(画像:国立国会図書館)

呪いとは自らの姿を隠したまま、相手に害意を伝えるものなのです。陰陽師・安倍晴明の逸話の中には、呪った者の身元が判明すると、呪詛返しに遭い、自らが害を受けてしまいます。呪いとSNSには極めて似た性質があるのです。

「呪い」には「のろい」と「まじない」の2つの読み方があります。「のろい」は恨んだり憎んだりする相手に災厄があるように、人間よりも目にみえない上位の存在(神仏や悪魔など)に祈ることです。また「まじない」は人間よりも上位の存在に災厄や病気を除いたり、運の変更を願うものです。「呪い」には災厄を与えたり除いたりする、両方の意味が込められているのです。

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『呪術廻戦』では、本来、呪霊を祓う立場にある呪術師でありながら呪霊たちと手を組み人間に害を及ぼす人々(呪詛師)が登場します。このことは「呪い」が「のろい」と「まじない」の両面性を持っていることを意味します。

『呪術廻戦』では、「呪い」が人間にとって、有益にも害悪にもなることが象徴的にあらわされています。「呪い」を人々に悪意を向ける「のろい」にするか、それとも他者の心とつながる「まじない」にするか、『呪術廻戦』は、私たちに「呪い」との向き合い方を伝える物語でもあるのです。

『呪術の日本史』編集部
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