「呪術廻戦」に描かれた"呪い"のルーツを紐解く のろい?まじない?呪いとSNSに共通する特徴

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伏黒の術式・十種影法術は、呪術御三家のひとつ・禪院家相伝のものです。「禪院」の名前の由来と考えられるのが、京都市左京区にある赤山禅院です。赤山禅院は天台宗の総本山である比叡山延暦寺の別院で、京都の鬼門(鬼や魔が侵入してくるとされる東北)を守護しています。赤山禅院は仏教の寺院ですが、祀っているのは泰山府君(たいざんふくん)という神様です。

泰山府君はもともと道教の神様で、安倍晴明によって陰陽道の最高神となりました。泰山府君は人間や生き物の生死を司り、泰山府君祭という呪術は死者を甦らせることができるとされます。

伏黒の術式は、泰山府君祭と同じ死者を甦らせる神道系呪術に由来しています。伏黒の術式・十種影法術は、『古語拾遺』や『先代旧事本紀』などに記された十種神宝(とくさのかんだから)がモデルになっています。十種神宝は、天皇家の祖先である天孫ニニギより前に地上世界に降臨していたもうひとりの天孫ニギハヤヒが天上世界からもたらした神宝です。伏黒の各式神には、呪印と呼ばれるマークがありますが、そのデザインはこの十種神宝のシンボルに似たマークとなっています。

十種神宝は現存せず、シンボルマークのみが伝わる(画像:国立国会図書館)

最強の式神のモデルとなった2つの呪術

伏黒の式神のうちで最強とされるのが、『呪術廻戦』第117話で初めて登場した「八握剣 異戒神将 魔虚羅(やつかのつるぎ いかいしんしょう まこら)」です。ここには陰陽道系と神道系の呪術が関係しています。

まず「八握剣」ですが、これは前述した十種神宝に由来します。十種神宝は鏡・剣・勾玉・布状の飾具で構成される10種類の神宝で、このうちの剣が「八握剣」と呼ばれます。また伏黒が「八握剣 異戒神将 魔虚羅」を召喚する際に「布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら)」という呪文を唱えます。

『令義解(りょうのぎげ)』には、十種神宝の神宝を使った呪術にこの呪文が登場します。十種神宝を持って「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十」といってから「布留部由良由良 布留部(ふるべゆらゆら ふるべ)」と揺り動かすと、病や傷を治療し、死者をも甦らせることができるといいます。

「異戒神将 魔虚羅」は安倍晴明が使役した式神に由来します。晴明は十二神将という式神を使役したとされ、『源平盛衰記』には晴明の妻が、式神・十二神将が家の中をうろつくのを恐れたため、普段は京都の一条戻橋の下に隠し、用事がある際に呪縛を解いて呼び出したとあります。この十二神将とは、陰陽師の占術に用いられる道具「式盤」に記された十二天将を指すとされます。

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