すると、他部署の上司から「そんな制度は社員を甘やかすだけだ。それよりも数字(収益)につながる仕事をやってくれ」と、横やりが入った。
だが、村田さんは「育児・看護・介護休暇制度は一部上場企業では導入されていて、地域密着型の企業になるには、社員が長く働き続けられる労働環境にする必要があります」と、一歩も引かなかった。
「……中途入社でよく言えましたよね。当時は無意識でしたけど、病気を機に、『たとえ明日死んでも今日やるべき仕事をやる!』という覚悟が、生まれていたのかもしれません」
高校生ばりの少しかん高い声でそう話すと、村田さんは小さく笑った。彼女の入社から約4カ月後、育児休暇制度が導入された。制度を作っただけでなく、彼女は会社の雰囲気づくりにも気を配った。例えば育児休暇中の女性に職場にも時々顔を出すようにと伝え、母子が訪れると総務課で子供をあやしたりした。
男性社員にも好評だった「看護休暇」の新設
男性社員にも好評だったのが、子供1人につき年間5日使える看護休暇制度。
「朝になって急に発熱した子どもを、病院に連れて行ったりする場合などに利用されています。以前は有給休暇で対応していたようですが、本来の有給は気分転換が主な目的ですから」(村田さん)
同社総合企画部部長の豊泉謙一さん(45)は、当時の職場をこう語る。
「私の子供はそこまで幼くもなく、両親もまだ介護の必要もなかったので、率直に言えば他人事でした。ただ、村田が取り組んでいたことは社員にとっては助かるので、『総務部で頑張ってくれ!』という気持ちでした」
村田さんは、さらに厚生労働省が推奨する女性活躍推進企業(通称「えるぼし」)に認定されることを目指した。従業員数300人以下の企業なら、女性の管理職比率3割や、月の残業時間40時間以内などの認定要件がある。
「全8人の管理職中、私が新たに課長に昇進し、女性が2人になって管理職比率はクリアしました。また、当時の月間残業時間は平均約55時間。これは夕方以降に行われていた会議を、全社的に始業前の30分に集中して行うことで、割と短期間で40時間に減らせました」(村田さん)
2019年1月、同社は厚労省の「えるぼし」3段目企業に認定。さらに埼玉県の「多様な働き方実践企業」や「健康経営企業」などの認定をとるたびに、全社員の名刺に一連のロゴマークが増えていった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら