このことは、営業マンが市内の法人企業に営業したり、新規契約に訪れる顧客に話したりする中で、地元で知られるようになり、社員の働き方改革に積極的な企業としての認知向上につながった。
結果、当初は否定的だった前出の上司も、『村田さんの目指していたことがわかった』と、理解を示すようになったという。
「専門性の高い業務を除いて、仕事の共有が進み、数名が休暇制度を利用しても、業務がとどこおりにくい体制ができてきました。病気や介護についても『誰もが経験することだからお互い様』という社風になりつつあります」(村田さん)
社員の病気や親の介護などの「弱み」を組織の強みに転換し、男女を問わず働き続けやすい職場に変わる過程でもある。
「職場での病気の情報開示は段階的に」が大切
一連の改革が着実に成果を上げていた2019年8月、村田さんはがんの再発を知る。右脇と心臓の近くに転移していてステージ4。抗がん剤治療を再開した。
「2013年に見つかったステージ3の左乳がんは全摘しました。その後は、ホルモン療法を続けながら、年数回の定期検査を受けてきました。その治療が効いていると思っていたので、ショックでした。でも、同時に『負けてたまるか!』という強い気持ちも、むくむくと沸き起こってきたんです」(村田さん)
抗がん剤は、朝晩2錠ずつの内服薬に変わっていた。以前は点滴だったから、体への負担は軽く、仕事を休む必要もないと考えた。
「下痢や発熱などの副作用はありますが、心身ともにつらかった当時の比ではありません。ただ、再発が厄介なのは、抗がん剤を今後ずっと服用し続けなくてはいけないことです」(村田さん)
職場への情報開示は前回同様、段階的に行った。まずは夫と直属の上司に伝えるとともに、治療に必要な情報を収集・整理。担当医の診断もふくめて状況を正確に把握し、仕事と治療の両立を目指すと決めた。そのうえで高校生の長女と勤務先の社長、すべての管理職に順次伝えた。
最後はSNSで友人たちに伝えると同時に、職場の全員には治療と仕事の両立への理解と協力を求めた。
「家族や職場の全員に一度に知らせたり、逆に一部の人たちだけに伝えると、家庭や職場が混乱したり、変な噂が出回ったりする危険性がありました。私自身も多くの情報を集めたうえで、自分にとって最善の選択をする必要があり、段階的な情報開示は欠かせませんでした」(村田さん)
直属の上司に相談する際の判断基準は、日頃から何でも話せる関係があるかどうか。村田さんの考え方だ。ないと思えば人事部にじかに相談するほうが無難と、現在は人事総務部長の彼女は補足した。
上司が非協力的な態度を見せれば、発症直後の本人が心身ともに大きなストレスを抱えてしまう。人事部を経由して、非協力的な上司にもクギを刺せる。
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