会社が激変!がん発病した彼女が起こした大変革 転職先の狭山ケーブルテレビをこう変えた

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スーツや制服にも似合うケア帽子会社もこの5月に起業した村田さん(写真:村田さん提供)

社長から治療に専念することも打診されたが、村田さんは次のように伝えた。

「私の場合、治療に専念すると自分の体調変化に日々一喜一憂してしまい、むしろ心のバランスを崩す危険性が高いんです。今まで通りに仕事と家事、そして育児と並行して治療を続けたほうが、気分もその都度まぎれます」

この連載の監修を依頼している腫瘍内科医の押川勝太郎さんも以前、仕事との両立が治療にも前向きな効果を与える可能性を指摘している。がんの罹患経験の有無にかかわらず、知っておいていい考え方だ。

「自分と会社の強みに変える」発想転換

がん再発があっても、村田さんは一連の取り組みをやめなかった。がん治療と仕事の両立を推進する企業を表彰する民間プロジェクト「がんアライアワード2019」への応募がその1つ。当初は、自身の病気をPRするようで彼女も戸惑った。

「ですが、介護休暇を利用しながら働いている女性同僚から、誰にでもがんのリスクはあるから大丈夫、といわれて応募を決めました」(村田さん)

村田さんががんの治療と仕事の両立を社内で宣言したことや、女性の活躍推進企業認定などの取り組みが評価され、がん再発から約2カ月後の10月に、がんアライのブロンズ(銅)を受賞。男女を問わず働き続けやすい会社は、がん当事者にも良好な労働環境と評価されたことになる。

村田さんは人事総務部長に昇進後、2019年から新卒の定期採用を目指して昨春1人、今春は2人の内定を決めた。会社設立26年目で初めてだ。前出の豊泉部長は、一連の働き方改革が就活学生にも好評だったと明かす。

「女性の活躍推進への取り組みは弊社HPにも明示していて、アナウンサー志望の女子学生から、その点について質問も受けました。今や学生が企業を選ぶ時代なんだと痛感させられました」

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さらに、がん治療と仕事の両立への取り組みをテーマに、市内にある大手企業の支店で講演するなど、村田さんは会社の認知度向上へPR役も担う。「がんで職場に迷惑をかけるから辞める」ではなく、病名公表を逆手にとり、「自分と会社の強みに変える」発想転換がそこにある。

「正直に言えば、転職当初は会社選びを間違えたかなと弱気になったこともありました。でも、小さな会社でもここまで変われるんだと体感できて、私もとても自信になりました」

中途入社でありながら会社の働き方改革を牽引し、がん当事者としての果敢な生き様と働き方を着々と重ねてきた今、村田さんはそう振り返った。

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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