日本人が知らない「脱成長でも豊かになれる」根拠 若き経済思想家・斎藤幸平が語る貧困解決策

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――コロナ禍でも気候変動でも危機が起きたときシワ寄せが行くのは貧しい層です。

もちろんコロナ禍の被害も甚大ですが、気候危機の被害の深刻さに比べれば、リハーサルにすぎません。コロナ禍での緊急事態は何カ月かの期間限定ですが、気候変動はもはや不可逆的な変化で、これから毎年のようにスーパー台風がやってくる。いわば慢性的な緊急事態が続き、世界中で水不足や食料不足などが次々、起こります。すでにアフリカの人たちは飢饉に苦しんでいます。

格差があると危機に対応できないということが一つの認識になりつつあるわけですが、それはどこか遠い国の出来事ではなく、日本の経済的弱者や中間層も遅かれ早かれ、同様に苦しむようになるでしょう。

――この状態を脱するためにはどうすればよいのでしょうか。

繰り返しますが、経済格差も気候変動も、引き起こしたのは資本主義です。このことを前提にして、新しい経済システムづくりをしていかなければいけないと考えています。

『人新世の「資本論」』(集英社新書)で論じたことですが、2つの危機をのりこえるには、「脱成長」型の社会に移行しなくてはなりません。

私たちはお金を手に入れるために、あまりにも働きすぎ、あまりにもモノを作りすぎ、その結果、健康を害し、環境を破壊している。そうしたサイクルそのものから抜け出すべきなのです。

人間誰もが必要とするものを「コモン」化する

無限の利潤獲得を目的とする資本主義のために働くのではなく、自然環境も人間の身体も有限であることを前提に、持続可能なペースで幸福を追求する。労働者も環境も食いつぶすような経済システムとは手を切り、経済自体をスケールダウン、スローダウンさせていく。それが脱成長です。

そこに向かう過程として、人間誰もが必要とするもの、たとえば水道、電力、住宅や医療・教育などを共有財産にして、人々の手で管理し、無償もしくは、安価に提供する「コモン」化が必要だと考えています。

なぜ安価にできるかといえば、たとえばパリ市は民営だった水道を「市民営化」という形で「コモン」化をしましたが、民営時代は経営陣の高額報酬や株主配当、不透明な経営で料金が高騰していたのです。生きるのに必要なものを脱民営化・脱商品化し、人々の手でマネージメントしていくことで費用を下げていくことができるのです。足りなければ、そこに公的資金をもっと入れていったほうがいい。

かつては少しずつ上がる給料で家のローンや子どもの教育費用、医療費、老後の資金を賄っていた。企業からのお金に依存して、人生設計を行ってきたのです。今の問題は、日本型の安定雇用が壊れたのに、教育なり医療なりに多額のお金がかかる制度がそのまま残っていること。当然収支が合わないわけです。

また、失職して収入を失うと同時に、家も子どもの教育も老後も、すべてを失う仕組みは、今ある仕事にすがりつかせる強制力として働く。いわば貨幣の支配です。

その支配を和らげるためにも、生活の基盤となるシステムを安価にし、収入に依存せず、皆がある程度平等な機会を持てる社会にしていく。コモン化によって、貨幣の動きや市場経済に依存しない領域が増えていくことが、すなわち脱成長経済です。

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