日本人が知らない「脱成長でも豊かになれる」根拠 若き経済思想家・斎藤幸平が語る貧困解決策

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資本主義は技術を発展させて生産効率を上げ、さらに大量に作ろうというモデルです。ですが、高めた生産力については違う使い方をして、今までと同じ量を作り、その分労働時間を減らす。そうすれば過剰な生産が減り、環境にも優しい。

経済成長を何らかの方法で回復させることで、男性正社員を優遇してきた日本型雇用にすがりつこうとするのは論外です。かつての社会は、女性に家事や子育てを押し付け、パートとして差別的な雇用を採用してきました。労働時間の短縮は、家事や子育てなどもより平等に行う社会の条件です。そうした共通経験が、環境に優しいエッセンシャルワークやケアを重視する社会の価値観を生み出していくのではないでしょうか。

人々が市場から稼ぐプレッシャーから解放され、同時に、環境にも優しいケアを中心とした社会ができていく。それがコモン型の社会、「脱成長コミュニズム」です。

――海外ではそういった取り組みが進んでいると聞きます。

例えばバルセロナでは、この数年で安価に住める公営住宅を大幅に拡充しました。また町の中に、スーパーブロックと呼ばれる自動車が入れないエリアを広げる計画を進めています。

公共交通を拡充し、車を使うインセンティブを下げてCO2の排出量を減らすのと同時に、それまで車に占有されていた道路を、近隣住民が使える共有スペース、「コモン」に転換していく。

格差と気候変動を同時に解決する新たな道筋

車の移動は不平等です。何百万円という車を買える人たちが道路を特権的に占拠し、事故が起これば運転する人ではなく歩行者が死ぬという、極めて暴力的な構造がある。それを是正して、自転車と公共交通機関を優先した、より平等で誰もが安全に移動できる街づくりをする。それはCO2の排出を抑えた、地球にとっても優しい社会になる。格差と気候変動を同時に解決する新たな道筋になるわけです。

これまで経済の成長だけを考えていたところに、環境とか、「コモン」を拡大して不平等を解消する視点を取り入れることで、私たちの考え方自体が大きく変わる。我慢と捉えられがちだった環境対策のイメージがむしろ生活の豊かさに結びついていく。そんな発想の転換もできるんじゃないかと考えています。

――そのためには財源が必要になってきますが。

経済格差の是正を同時に進めるためにも、大企業や富裕層への課税を強化すべきです。金融資産課税でもいいし、不動産などの資産に直接、富裕税として課税をしてもいい。ここまで下げられてきた法人税や所得税ももっと上げていけばいい。

とにかく、大胆に格差を是正し、社会を平等にしていく必要がある。先進国の貧困問題は、富が偏りすぎているせいで、サービスや必需品にアクセスできない人が多いだけなので、格差是正が実現すれば、今ある貧困問題はかなりの部分が解決すると考えています。

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