"異端児"オードリー・タンを苦しめた学校の呪縛 類まれな才能を持つ"ギフテッド"の苦悩

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オードリー・タンさんの幼少期の苦悩とは?(写真提供:唐光華/オードリー・タン)
台湾のデジタル担当政務委員大臣オードリー・タンさん。今でこそ世界中のイノベーションの最先端を牽引する存在ですが、類まれな才能を持つギフテッドであるがゆえに、幼い頃は既存の教育体制に相容れなかったという過去もあります。
そんなオードリーさんを育てた母親・李雅卿(リー・ヤーチン)さんによってその全貌が綴られた手記『成長戦争』は、今から20年前以上の台湾で出版されてベストセラーになった後、現在は絶版となっています。
このたびオードリーさんの公認を受け、『成長戦争』を引用・翻訳しながら現代向けに書き下ろされたノンフィクション『オードリー・タン 母の手記「成長戦争」 自分、そして世界との和解』から、幼いオードリーさんを苦しめた「学校の呪縛」について、一部を抜粋してご紹介します。
平均値に沿って統一されるよう設計された団体教育の中で、より深い知識を求めて苦しむ幼いオードリーさん。『成長戦争』の〈悪夢の日々〉という章では、「宗漢(オードリーさんの以前の名前)の本当の苦難は、小学校から始まる」という書き出しで、小学校に上がってから小学4年生までの期間、オードリーさんやその家族が悩み、苦しんだ過去が描かれていました。

「なんで死んでくれないの?」というクラスメイト

「一般クラスでのオードリーは皆と仲良くできており、クラス長や模範生徒に選ばれるほどだったが、ギフテッドクラスの生徒たちはいつも互いに嫉妬し、けんかして彼を悩ませた。

ギフテッドクラスに入れば少しは状況が良くなるかと思っていたが、この古い学校はギフテッドの子どもたちが特別な教育を必要としていることを受け入れられないようだった。

さらに一般クラスの教師たちは、これらの学生が心理的に敏感であることや、学習上の差異があることに見向きもせず、言葉で彼らを傷付けた。政府のギフテッドに対する支援はとても薄く、宗漢のように学習のニーズが特別大きい子どもに遭遇し、ギフテッドクラスの教師でもどうにもならなくなると、最後は放棄するしかなかった。

この学校に経験のある教師がいないからなのか、人と比べては嫉妬する人の心が原因なのか、ギフテッドクラスの教師たちの頑張りに反して、当初の計画通りには子どもたちを見られなくなっていた。

ギフテッドクラスの保護者たちは比較するのが大好きだったので、子どもたちの嫉妬心はエスカレートし、教師たちを困らせていた。絵がとても上手だけれど、国語と算数が苦手な子どもがいたのを覚えている。彼の両親はそういった落差を受け入れられず、毎日彼を罵っていて、とても可哀想だった。

さらには、宗漢に向かって『なんで死んでくれないの? お前が死んだら、僕が1番になれるのに』と言った生徒もいた。その子は、1番になれないと父親に叩かれていたのだ。私は保護者会で彼の父親に話しかけてみたことがある。するとどうしたことか、『うちの子もお宅のお子さんみたいになれたら、2人はいい友達になれるのに』などと言うものだから、思わず我慢できずに『あなたにいつも比べられてばかりで、どうやって友達になれるというんですか?』と言ってしまった。だがそれでも状況は改善しなかったから、きっと彼は聞き入れなかったのだろう」

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