脱サラして「唐辛子に懸けた男」の凄すぎる生き様 畑の隅にあった「1粒の実」が運命を変えた

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会社員時代から、生活も一変した。どんなに忙しくても、雨が降れば畑に出られないし、日が落ちれば農作業はできない。必然的に、のんびり過ごす時間が増えた。芥川さんの母親も、「家におってもぼーっとするだけだから、お天道様の下で体を動かしているほうが気持ちいい」と、毎日手伝いに来てくれているそうだ。妻と2人の娘は、あまり手伝ってくれないのだと嘆くが、それでも生活が豊かになった、と芥川さんは満足げだ。

「今は従業員もいないし、自分たちの生活を守っていったらええわけじゃないですか。会社員のころより収入はちょっと減ったけど、どうにかこうにか食べていけるだけ稼げたらいいかな。それ以上の欲をかく気もまったくないんです」

唐辛子がつなぐ全国の縁

唐辛子農園を始めてうれしかったこと。それは、全国の“唐辛子バカ”と出会えたことだと芥川さんは話す。うわさを聞きつけて、唐辛子好きが農園を訪ねてくれるようになったのだ。なかには有名大学の教授もいるが、唐辛子を前にすると、子どものように無邪気にはしゃぐのだという。芥川さんがそうだったように、唐辛子に一目ぼれした人々が、その愛を語り合う場所になっている。

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ちなみに芥川農園で栽培する唐辛子200~650品種のうち、市販用は15~20種類で、それ以外は趣味の観賞用。利益度外視で、どれだけ唐辛子へ愛を注いでいるかが伝わるだろう。

「このドラゴンズブレスという品種は240万スコヴィルで、幻の世界一と言われていますが、正式なスコアはまだわからないんです」

「新しい色の一味唐辛子を作ってみようかなと。ピンクとか緑とか、今までにないものを販売しようかなと思っています」

「いつかメキシコにも視察に行ってみたいです。でもイギリスも唐辛子の一大産地なんですよ。イギリス人は辛いものが大好きで、ガーデニング王国でもあるから、次から次へと新しい品種が生まれています」

唐辛子について話す芥川さんの口調は、熱を帯びる一方だ。辛(から)いという字は辛(つら)いとも読むが、日本一の唐辛子バカの姿は、筆者には幸せにしか見えなかった。

焼けてしまう前の芥川さんの農園。復活が待たれる(写真提供:芥川さん)

2021年7月、芥川農園のガラス温室が火事になった。猛暑のため、電気系統がショートしてしまったのだった。20台以上の消防車が駆けつけて鎮火したが、唐辛子の苗や設備や資材は跡形もなくなった。

ショックは大きく、廃業も考えたが、「やっぱり唐辛子たちに囲まれたこの仕事が大好きで、続けたいと感じました」と芥川さんは前向きだ。温室の復旧のために開始したクラウドファンディングには、唐辛子や芥川さんのファンからの支援が相次いでいる。

唐辛子は体だけでなく、ときに心もポカポカにしてくれる。多くの人にその魅力を届けるべく、芥川さんの奮闘は続いていく。

肥沼 和之 フリーライター・ジャーナリスト

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こえぬま かずゆき / Kazuyuki Koenuma

1980年東京都生まれ。ルポルタージュや報道系の記事を主に手掛ける。著書に『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』(青月社)、『フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。』(実務教育出版)。東京・新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」のオーナーでもある。ライフワークは愛の研究。

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