早速、農家の友人のもとに通い、手伝いをしながらイロハを学んでいった。同時に自分でも畑を借り、トラクターなどの設備も用意した。最初に栽培したのは、緑黄色野菜のケール。青汁にして販売しようと考えたのだが、競合が多く、資本力がないと勝ち残るのが難しい。悩んでいるとき、畑の隅っこに植えていた唐辛子の1粒の実が、運命を変えた。
「ブートジョロキアという品種がたくさん育ったのですが、その実の1つが語りかけてきたように感じたんです。何かの暗示だったのかもしれません。写真をFacebookに載せたら、美しいっていう反響がものすごかったこともあり、これだけでやってみよう、って決めたんです」
それからは唐辛子のみを栽培していった。品種は鷹の爪のほか、よく知られているハバネロやブートジョロキア。最初は年間50万円ほどしか売り上げがなかったが、唐辛子を全国販売している農家は少なく、勝算はあると確信した。
唐辛子農家の苦労
“劇物”を扱うゆえの苦労もあった。収穫したハバネロを素手で加工していたとき、途中から手に痛みを感じ、最終的には千切れんばかりの激痛になった。風呂に入ろうとすると、40度のお湯が100度の熱湯に感じ、慌てて飛び出した。うっかり目をこすろうものなら、涙が止まらない。悲惨なのは、生理現象のときだ。
「トイレに行ったときに、ほら、触ってしまいますやん、唐辛子のついた手で。もう、痛くて痛くて(笑)」
枯れた唐辛子を燃やしていたところ、近くを散歩していた人が激しくむせ、「何を燃やしているんや!」と怒られたことも。目が痛むという近隣の人々の通報があり、消防車が駆けつけたこともあるという。
栽培方法も、手探りで研究を重ねていった。唐辛子は条件によって、辛さが数倍も変わる。そのため、土や肥料や水の量などを調整しながら、唐辛子が安定して丈夫に育ち、なおかつ辛くなるように試行錯誤していった。
2017年、キャロライナリーパーという品種が、当時のギネスブックで世界一辛い唐辛子だと認定された。辛さの指標であるスコヴィル値は、タバスコが約5000のところ、キャロライナリーパーは約164万。しかし芥川農園産のものは、214万というバグった数値をたたき出したのだ。
筆者も試食させてもらった。粉末状に加工したキャロライナリーパーを、麻婆豆腐に3回ほど振って食したところ、大げさでなく口内と内臓を爆撃された感覚がした。
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