医師が「減量で食事制限は不要」と断言する根拠 欧米で使用されていた「やせ薬」が消えた理由

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ある恐ろしい実験があります。

ネズミの脳の報酬系回路に電極を埋め込み、それをネズミが前足で押すことのできるレバーにつなぎます。つまり、ネズミは前足でこのレバーを押すことで、自らの力で報酬系回路を活性化して快感を覚えられるようになります。

するとネズミはすべてを忘れて、レバーを押し続けるようになってしまいました。食事も水もとらずに押し続け、そのまま放っておいたら餓死寸前の状態にまで陥ったのです。

それはネズミだったから、と考える方もいるかもしれません。

しかし同様の現象は人間においても確認されています。

過去一時期、電気刺激によって精神疾患の患者さんを治すという試みが行われたことがあります。ある時、この報酬系回路に電極が置かれてしまったことがあります。

その際、やはり人間でも、ネズミと同じようにすべてを忘れて電気刺激を求めるようになってしまったと報告されています。ひどい場合には、電気刺激のスイッチを押しすぎて、指に潰瘍ができるほどだったそうです。

このように書くと、報酬系回路は恐ろしいものと感じるかもしれません。

しかし、報酬系回路は恐ろしいばかりではありません。

なぜなら、この回路は恋をしたときにも活性化されるからです。

一時期使用された「やせ薬」が消えた理由

恋とは切なく、つらいものです。

しかし同時に、このうえない幸福感、つまり快感を引き起こします。この幸福感は強烈です。恋の経験がない、という方はいらっしゃらないのではないでしょうか。

そして、この恋をしたときと同じメカニズムが報酬系の食欲では働いています。

おわかりいただけたと思います。意志の力で恋、つまり人を好きになる気持ちを止めることは絶対にできないはずです。

「やせ薬」がないのは、ここに理由があります。

じつは、脳の報酬系に働きかけて食欲を制御する薬は、欧米で一時期使用されたことがあります。

しかし、これらの薬を飲んだ方に「自殺を増やす」という副作用の存在が指摘されました。

『オックスフォード式 最高のやせ方』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

これは、この手の食欲を制御する薬に報酬系回路、つまり快感を抑えてしまう作用があったからと考えられています。

食事だけでなく、恋をしたり、何かを楽しいと思ったりする気持ちが抑えられてしまうと、人には生きている喜びがなくなってしまうのです。

食欲を抑えてダイエットに成功しても、「生きているのがイヤ」になったら元も子もありません。ダイエットに挑戦する方は、健康的に痩せることで人生をもっと楽しく過ごしたい、そう思っておられるはずです。

ダイエットで食事を我慢してはいけない理由が、ご理解いただけたと思います。

ぜひ、ご自身の体の仕組みを知っていただいたうえで、コロナ太りを解消するダイエットを実践する際の参考にしていただければ幸いです。

下村 健寿 福島県立医大主任教授、医師

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しもむら けんじゅ / Kenju Shimomura

福島県立医科大学医学部病態制御薬理医学講座主任教授。医学博士・医師。元・英国オックスフォード大学生理学・解剖学・遺伝学講座/遺伝子機能センター・シニア研究員。インスリン・糖尿病学の世界的権威、フランセス・アッシュクロフト教授に師事。同大学にて2004年に発見された、新生児糖尿病の治療法発見に貢献する。特に2007年に米国神経学会雑誌「Neurology」において、新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の世界初の治療有効例を、その治療法・病態メカニズムとともに報告し、Editorial論文に選ばれ高い評価を受けた。現在は母校・福島県立医科大学病態制御薬理医学講座の主任教授を務める。

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