これは安倍政権と非常に似ています。岸田政権も安倍政権と同じ道をたどるおそれがあるということですね。
菅政権の大学改革を引き継ぐ岸田政権
中野:これまで経済の話を中心に議論してきました。そこで、今度は古川さんにお聞きしたいと思います。古川さんは教育学を専門とされていますが、岸田内閣をどのようにご覧になっていますか。
古川:私は岸田さんの話を聞いていると、素朴な印象として、「自民党の中にもこんなまともなことを言う人がいたのか」と感じました。この感覚は、おそらく多くの国民の感覚とそれほどズレていないのではないかと思います。
というのは、この間、野党やリベラル派は自民党の新自由主義的な政策によって格差が開き、中下層の人たちの生活がボロボロになってしまったと批判していましたよね。そこにコロナが来て、もともと貧困化していた人たちの生活がいよいよ立ち行かなくなったというのに、それでも自民党は「まず自助だ」などと言って、給付金さえ出し渋る始末です。これではさすがに、もはや「保守」とは名ばかりで、実際には自民党は国民の生命も生活も守ってはくれないのだという認識にならざるをえません。実際、従来の保守支持層の中からも「今度という今度は自民党には失望した」という声があがるようになっていました。そこで野党は、そこに目をつけて「自分たちこそ真の保守だ」と言い出し、保守支持層の取り込みを図るようになっていました。
そうした中、岸田さんが新しく総理になり、「新自由主義からの転換」ということをはっきりと打ち出した。これにより、「岸田さんならもう一度自民党を何とかしてくれるかもしれない」という雰囲気が広がり、再び自民党への期待感が高まっているのではないかと思います。野党は「やられた」と思っているのではないでしょうか。
中野:おっしゃる通りです。野党は「アベノミクスの検証が必要だ」と言っていますが、岸田総理はアベノミクスをやらないと言っているわけですから、いまさらアベノミクスを検証してどうするんだという話になります。野党は肩透かし食らった感じがしますね。
古川:ただ、やはりそこで気になるのは、岸田さんが支持者をつなぎとめるために、パフォーマンスで新自由主義からの転換と言っているだけなのか、本当に新自由主義をストップするつもりがあるのか、ということです。私も岸田さんが「改革」というワードを使わなかったことは評価していますが、どこまで本気なのかよくわからないのです。
たとえば、私が特に関心のある教育政策や大学政策で言うと、岸田さんは「科学技術立国の実現」を掲げ、10兆円規模の大学ファンドを年度内に設立すると言っています。しかし、これは菅前総理が打ち出した、いわゆる「稼げる大学」に向けた大学経営改革をそのまま引き継ぐものです。
菅前総理は大学に産業界をはじめとする外部人材を入れた意思決定機関を作り、そこからトップダウンで大学を変えていくという「改革」を打ち出したのですが、岸田総理はこれをそのまま引き継いでいるわけです。
先ほど柴山さんが「改革」の4つの要素をあげてくださいましたが、90年代以来の「大学改革」には、トップダウンの意思決定をはじめ、まさにその4つの要素がふんだんに盛り込まれていて、「稼げる大学」構想はまさにその極みにほかなりません。こうした政策をそのまま継承すると言いながら「改革をやめる」と言われても、本当にやめる気があるのかと疑わざるをえません。岸田さんの本心はどこにあるのか。私はそこが引っかかっています。
(構成:中村友哉)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら