岸田総理が「改革」という言葉を使わなかった訳 世間は明らかに「新自由主義」に疲れきっている

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それは一つには、新自由主義から脱却するためには国際秩序そのものを変えなければならないからです。たとえば、岸田さんが構造改革路線を批判したり、金融所得課税の強化を打ち出したりしたところ、株価が下落しました。多国籍企業などが「もう日本には投資しない」「日本から出ていくぞ」とプレッシャーをかけ、資本の流出が起こったわけです。日本一国だけで新自由主義から脱却するのは非常に困難なのです。

構造改革路線から転換するには、欧米諸国などの、新自由主義にうんざりしている人たち、グローバリズムにうんざりしている人たちとの連携が不可欠です。アメリカのトランプ支持者たちはそうですし、EUから離脱したイギリス、あるいはバイデン政権の支持者の中にも、改革に疲れている人たちはたくさんいると思います。彼らと協力し、各国の中間層や庶民を第一に考え、グローバルな企業関係者や投資家だけが儲けている現状を変えていくことが重要になります。

それゆえ、岸田政権が本気で新自由主義からの転換を訴えるなら、それと同時に国際秩序を変えていくぞという話もすべきです。しかし、岸田総理は現在のところ、そこまでは言っていません。また、岸田総理にそのつもりがあったとしても、国際秩序に積極的に働きかけ、変えていこうとすることは戦後の日本が一番苦手とするところですから、どこまで踏み込めるか疑問です。

構造改革以前の日本に戻せるか

柴山:私も岸田政権に対しては期待半分、不安半分です。岸田総理が改革という言葉を使わなかったこと、これまでとは違う路線を目指しているところは期待できます。世間も、明らかに改革に疲れていますからね。しかし、次の路線がどのようなものなのかはまだ判然としない。

柴山 桂太(しばやま けいた)/京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。専門は経済思想。1974年、東京都生まれ。主な著書にグローバル化の終焉を予見した『静かなる大恐慌』(集英社新書)、エマニュエル・トッドらとの共著『グローバリズムが世界を滅ぼす』(文春新書)など多数(撮影:佐藤 雄治)

それに改革は社会のあらゆる面ですでに走り出しているので、いまになって旗を降ろしても、簡単には止まらなくなっている面もあります。

日本の改革論は、基本的に4つのフレーズの組み合わせだったと思います。1つは「自助」です。競争を重視し、共助や公助に頼らない自己責任原則に基づいた社会を実現する。2つ目に政府の「身を切る」。公務員を非正規に切り替えていくなどして、行政の費用を抑える。第3に「開かれた」社会の実現で、これはTPP論争のときなどに繰り返し言われました。4つ目が「トップダウン」の意志決定で、上が決めたことを迅速に実行にうつしていく。

改革にはいろいろな方向性がありえますが、平成期はこの4つの要素を満たすものが正しい改革とされたわけです。それが30年続いた結果、今では他の方向での改革が想像しにくくなっている。違うことを言うと、改革路線からの後退だ、反動だと見られてしまうんですね。

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