穴だらけの「子供にネット与えるな」論 倉敷誘拐事件が起きたのはケータイのせいか
まず1だが、少女の保護者は、GPSで位置確認ができたから安心したのではない。そもそも時系列の理解がまったく間違っている。当時の時系列については、J-CASTニュースの記事がよくまとまっているので、これを参考にしてみよう。
・倉敷小5女児不明、ケータイも見つからず GPS機能があるのになぜなのか
まず最初に女児の母親が、不審な車を目撃して警察に相談したのち、GPSと防犯ブザー付きのキッズケータイを持たせている。おそらく警察の勧めもあったのだろう。この判断は間違っていない。
GPS端末は本当に役に立たなかったのか
さらに当日は、居なくなったのに気づいたのが先で、その後GPSを使って位置確認をしたというのが、正確な時系列だ。位置情報は、学校の北側と南側にわかれ、およそ20カ所を転々としていたことがわかっている。この20カ所というのは、20カ所に立ち寄ったという意味ではない。母親がおよそ20回、位置情報を検索したからである。安心などしていないことがわかる。
GPSが示した位置をくまなく捜索したが、女児は見つからなかった。午前0時半頃、捜査員が電話をかけたが、応答はなかった。10分後には呼び出し音も鳴らなくなったというから、最初の電話は呼び出し音は鳴ったのだろう。
GPSや携帯の電波が届かなくなったのは、おそらくバッテリー切れのせいではない。キッズケータイは、だいたい待ち受け時間が400時間以上あるので、バッテリーの劣化がなければ、10日以上は保つ。
これは用水路の中から発見されたということがポイントだ。キッズケータイは防滴・防水仕様なので、水没しても故障はしない。電波が届かなくなったのは、ケータイが水中に入ったからである。
GPSやWi-Fi、それからケータイキャリアが使う高周波は、水中では急激に減衰する。たとえば2.4GHzのWi-Fiでは、水中に1cm沈めただけで半減する。2cmで25%、10cm沈むと1%以下にまで減衰する。防水のスマホなどをお持ちの方は、お風呂に沈めてどれぐらいで圏外になるか、試してみると面白いだろう。
こういうのはあまり知られていない話なので、犯人も知らなかっただろう。たまたまそこに用水路があって、そこに投げ込んだだけなのかもしれないが、これが不運だった。
さてそれはそれとして、この事件でGPS端末が子供の位置確認にまったく役に立たなかったとは言い切れない。少なくとも、方向はわかった。GPSが示した位置と犯人の家とは、学校、自宅を起点にすると延長線上にある。
年配者ゆえの、ニュースソースの少なさ
1の問題点は、ニュースを中途半端な記憶だけで再構成し、ケータイを持たせたくないという理屈に無理やりなすりつけた点なのだが、ではなぜこのようなことが起こるのか。
それは、年配者ゆえのニュースソースの少なさと、ニュースへのアクセシビリティの低さに原因がある。60~70代のメインのニュースソースは、おそらく新聞である。それにテレビのニュースが追加される程度であろう。もちろん、マスメディアとしてはそれで十分ではあるのだが、双方ともソースとしては一過性のもので、あとで見返すということはほとんどないメディアである。
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