参議院とは何か 1947~2010 竹中治堅著 ~強い権力を発揮する参院を平明に分析
参議院は、多くの人にとり、その存在自体がわかりづらい。自民党が衆参で過半数を獲得していた時代には、参院の決定は衆院の追認に過ぎず、単なる「カーボンコピー」とされ、不要論も聞かれた。しかし、衆参のねじれが発生するようになると、反対に「強すぎる参院」が問題となった。安倍、福田、麻生政権の行き詰まりも、直接的には参院の与党過半数割れが原因で、福田首相は大連立を模索した。昨年9月の総選挙で勝利した民主党も、参院での過半数獲得のため、連立を選択した。
日本は、統治システムとして衆院と内閣の信任関係で成り立つ議院内閣制を選択しているため、多くの人が政権選択は衆院選挙と認識する。しかし、参院は法案形成を超え、政権構成にも強い影響力を持つ。首相の解散権も及ばず、内閣から独立する参院をどうとらえればよいか。本書は歴代首相との関係に着目し、参院をわかりやすく分析する。従来、参院に絞った研究書がほとんどなかったこともあり、選挙前に参院を理解するための良書が出版された。
著者の結論は、「カーボンコピー」と呼ばれた時代も、参院は強い権力を発揮していたということである。時の首相は参院の多数派から支持を得るため、血のにじむ努力を行っていた。法案審議結果が衆院と同じなのは、既にその前段階で多数派工作が終わっていたためで、政策立案過程全般で参院の影響力が強く及んでいたことが示される。
では、議院内閣制における参院の役割とは何か。著者は、内閣と衆院が一体となって行う政策立案、特に立法を抑制することであり、それが憲法で予定したことだと言う。国会での迅速な意思決定を重視し、「強過ぎる参院」を問題視する人は驚く結論だろう。しかし、権力は発動されない時よりも、発動される時のほうが国民生活に多大な影響を与える。それゆえ時間を要しても、権力行使に慎重さを求める二院制が適切だと言う。それが人類の知恵なのだろう。
改革すべき点として、民主主義の基本である平等原則が大きく損なわれており、一票の格差是正を挙げる。また、衆院の二大政党制から漏れた民意を汲み取り、多党制を可能とするため、全国を中国や四国など10の地域ブロックに分けた大選挙区制導入を提唱する。
時の権力者は参院の強さを知っていたからこそ、参院での支持獲得に精力を注いできた。派閥を無視した小泉首相も参院自民との関係には相当配慮した。小沢一郎氏が参院民主党に強い基盤を築いたのも、同様の理由からだろう。選挙後、菅首相が参院民主党を取り込むことができるのか、大変興味深い。
たけなか・はるかた
政策研究大学院大学教授。専攻は比較政治、日本政治。1971年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、大蔵省入省。スタンフォード大学政治学部博士課程修了。Ph.D.(政治学)。2003年9月から1年、スタンフォード大学客員研究員。10年4月より現職。
中公叢書 2310円 378ページ
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