国学院大学野球部、15年越しのブランド戦略 基礎から教える独自のメソッドで開花

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大学球界や甲子園で本気でトップを目指そうと思ったら、アマチュアと言えども莫大な費用がかかる。グラウンドやトレーニング場など設備面はもちろん、選手が寝泊まりする合宿所の経費、指導者やトレーナーの人件費も必要だ。

だがカネをかければ強くなるかと言えば、そうではない。組織として成長を遂げ、大学の名を売っていくには、何より人材育成における信念が重要になる。

“心技体”の土台づくり

2014年春、国学院大を象徴するような投手がさっそうと登場した。田中大輝、22歳の左腕だ。初めてマウンドを踏んだ東都1部の舞台では、キレのあるストレートとスライダー、新たに覚えたツーシームを武器に4勝を挙げてベストナインに選出され、侍ジャパン大学代表にも選ばれた。秋のリーグ戦を前に、一躍、ドラフト候補と視線を注がれる存在になっている。

熊本県の必由館高校時代から身長182cmの大型投手と注目されてきた田中だが、国学院大に入学してからの3年間、リーグ戦でマウンドに立った機会は1度しかない。チームが東都2部で戦っていた2年時春、すでに優勝が決まっていた最終戦で3分の1回だけチャンスを与えられた。しかし3年春を前に左ヒジを痛め、夏の期間をリハビリに充てる。秋に投球練習を再開させたが、登板機会は巡ってこなかった。

ドラフト候補と呼ばれるような素材が、なぜ3年間、1度も実戦の機会に立てなかったのか。鳥山監督が説明する。

「体力、ストレートと変化球の能力、コントロールという基礎的な力をつけるのに時間がかかったので、使えませんでした。心技体の土台作りに3年かかったため、1部デビューが4年春になったということです」

国学院大学には、「先で伸びる人材」を輩出するための独自システムがある。竹田が監督時代に導入し、現在も引き継がれているものだ。田中が過去3年間マウンドに立てず、4年春にデビューが遅れた理由はここにある。

スポーツの世界では「心技体」の解釈に、組織や指導者の育成哲学が表れるが、国学院大学では2つの考え方がある。ひとつ目は、3要素の位置づけだ。もうひとつが、3要素を支える「土台」があるという構図。

鳥山が説明する。

「人を支えているものは心であり、体である。でも、心と体の順番が逆ではダメ。心がまだできていないのに体はでき、技術論ばかりに走ると、ちょっとスランプになったとき、心が安定していないからガタガタ崩れるわけです。だから、心の面をちゃんとやっていかないといけない。もうひとつは、3つの要素のバランスを支えている土台がしっかりしている必要がある。このバランスが崩れてはダメだと思います」

心体技を支える土台とは、「心=考え方、プラス思考」「体=体力、下半身の強化、体幹、柔軟性」「技=キャッチボール、打撃の右打ち、走塁の基本」などだ。土台ができていないうちに小手先の能力だけで実戦の場に立つと、小さなほころびが大きなほつれになる可能性がある。

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