田中は3年間かけて体と心の土台を作り、技術面ではストレートとスライダーのキレを磨いた。「緩い変化球とかで、初めから打たせて取ることを考えるような小手先ではやりたくなかった」。そうして地道にストレートとスライダーをレベルアップさせ、4年開幕前にツーシームを覚えたことが飛躍につながった。
目先の結果を優先しない
一方、2年秋、3年春と過去2シーズン続けてショートのベストナインに選ばれた3年生の柴田竜拓は、入学1年目、チームのノックの輪に入れてもらえなかった。岡山理科大学附属高校時代から「抜群の守備センス」と注目を集めたものの、鳥山の目には「基礎力がまだない」と映ったからだ。
守備の基礎を具体的に言えば、グラブさばき、足の使い方などが挙げられるが、鳥山流では「基礎がなければ波長が合わない」となる。
「柴田は1年の頃からいいものを持っていましたが、何かあると心が揺らいだり、うまいプレーもあるけど、つまらないミスもするという選手でした。基礎ができていないと、チームとしての波長が合いません。連携プレーができないし、いくら単品の能力がすごくても、チームプレーになっていかない。基礎力とセンスは一直線上にあるもの。柴田はもともと持っていたセンスに基礎力をつけたから、よほどのことがなければ揺らぐことはないでしょうね」
個別練習で守備の土台を鍛えられた柴田は、2年時春季リーグ途中からショートの定位置をつかみ、秋には打撃センスも開眼した。「野球はすべて下半身。守備で鍛えたのがバッティングに自然とつながっているのかなというのはありますね」。この春には侍ジャパン大学代表に入り、7月のオランダ遠征では全試合で起用されるまでに成長した。
「焦るな。慌てるな。あきらめるな」。鳥山は田中、柴田にそう繰り返した。2人は将来、プロで活躍することを見据えて国学院大の門をたたき、着実に目指す場所に近づいている。大学は人生の通過点。だから指導者は目先の結果より、優先しなければならないものがある。
鳥山が言う。
「うちには、『なんで俺を使わねえんだ』っていう選手はいません。そう思わせるようには持っていかないですよね。こないだも言いましたが、『仮に人としての土台を作らず、大学でレギュラーを獲って、野球から離れたときに、お前のわがままに社会は合わせてくれないよ』って。そういうことに対応できるのが土台なのです」
大学で野球をするのはわずか4年間。その先には各自の人生がある。指導者は卒業後にも責任を持つべきだと鳥山は考えている。
「国学院大学のルールは社会の縮図でなければダメなのです。大学のスポーツ界には独自のルールとか伝統があるけど、うちにはそんなものはいりません。何が常識かわからない、難しい時代になっていますが、いつの時代も変わらない、まっとうな原理原則があると思っているので。あきらめずにやるとか、困っている人がいたら助ける、とかね。10年後も100年後も変わらない、物事の本質のよさを突き詰めて、学年を上がらせていきます」
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