今回、中国に対するWTO違反の告発を行った経済産業省の、この2年半の努力は評価できる。だが、中国が相手だ。相手が相手だけに油断してはならない。中国の商務省が、これで素直に政策をルール通りに是正することはあり得ない。中国は必ずレアアースやタングステンやモリブデン以外でも、別の姑息な手を打ってくることを予見している。
例えば、今回のWTO裁定を受ける見返りに、日本に環境技術の無償提供を要求してくるかもしれないのだ。例えば、磁性材料関連の日本メーカーが広東省に進出することを決めているが、環境技術のみならず磁性材料のノウハウの開示や特許の公開を条件に、日本企業の中国進出を認めることなども考えられる。
とはいえ、私見ではあるが、たとえ今後中国に対して実質的に打つ手はないことも承知の上で、今回のWTOの日本の勝利は大変意味深いと考える。日本もアメリカもEUも、今後中国からの消費財の購入が減ることを計算に入れている。一方、中国の人件費が高騰することで、「世界の工場」の強みは減衰している。まして、不動産バブルは終焉に向かっており、理財商品の破綻などから深刻なデフォルト(債務不履行)が今後頻発するかもしれない。バブルは長引けば長引くほどその規模は膨れ上がるわけで、最悪の場合は2008年のリーマンショック級かそれ以上?の危機が来る可能性があることを、覚悟しておいた方が良いだろう。
WTO紛争で冷え込む関係になるべきではない
もちろん、日本も中国に対して、今後は一段と、ある意味で「気前よく技術を提供する」ことはなくなるだろう。日本はアメリカほど露骨に相手と貿易抗争をすることはないが、対中国対策では今回のように、米国とEUを引きずり込んでWTOの裁定で完全勝利をしたことは意義深いことである。
良し悪しは別にして、中国の経済力には相対的な陰りが出ているのは否めない。一方、米国とロシアの関係も悪化しそうな状況を見ているとあながち巷間言われる「第二次冷戦構造」といえなくもない。
とはいえ、こうした環境下では、日本の地政学的位置づけを考えると、上述のような「第二次冷戦構造」が仮に明らかになるとしたら、どうなるだろうか。筆者は、対中ビジネスでの長い経験から、日本と中国の関係は、本来は、補完関係にあると考えている。
本来なら、必ずや双方が協力して平等互恵の関係で助け合わなければならないと考える。元来は、「仲の良い友人」なのだから、ここは「嫌なこともいえる関係」にならないといけない。
中国の文化をよく理解して、脅威と弱みを突く。もし世界が新たな冷戦構造に向かうなら、日本にとっては、むしろ世界経済での比較優位状況を構築することになる、大チャンスでもあると思うのだ。
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