さて、「日本が中国に勝った」という一節で、なんとなく読んでみたくなった方も少なくないだろうから、一連のレアアース紛争と中国の不当な規制について、簡単に振り返ろう。
中国は2006年頃からレアアース、タングステン、モリブデンに不当な輸出制限や過大な輸出税を賦課し、明らかな「WTO違反」を繰り返してきた。
この事態がエスカレートしたきっかけをつくったのが、2010年の9月に起きた沖縄県の尖閣諸島での「中国船衝突事件」だった。この事件をきっかけに、中国が外交カードとしてレアアースの対日輸出の禁止措置に出た。
これでにわかに供給不安を懸念する声が高まり、その後、レアアースの市況はなんと10倍以上に跳ね上がった。結局、その混乱は東日本大震災直後の2011年の7月まで続いた。日本は中国の商務省に対するEL制度の停止と輸出税の不当な賦課撤廃を求め、2012年3月、正式にWTOに提訴した。
だが中国との協議は、空回りして機能しなかった。そこで、同年6月に米国とEUと一緒にWTO紛争処理委員会(パネル)の設置を要請。2013年2月と6月には口頭弁論が開催された。今年3月に「第一審」に中国が敗訴したのは上述の通りだ。中国は容易に屈しなかった。環境や資源保護を言い訳に2014年4月にWTO上級委員会への上告を行ったが、これらは明らかな時間稼ぎと無意味な主張だったのだ。2010年から足掛け4年、2012年3月からカウントしても、約2年半もかかって、問題はやっと解決したかに見える。
それでも、問題は解決しない?
もちろん日本としては、中国が報告書の勧告を早期に履行し、WTO協定に整合しないと認定された措置を速やかに是正することを求める。だが、先行きは不透明な部分もあり、本当の問題はこれからである。
というのも、実はWTOの是正勧告には実質的なペナルティー条項がない。いくら勧告をしても、中国がそれを無視すれば、実質的には何の意味もないのである。もし、ルールを守らないなら「中国はWTOから離脱してくれ」ということになる。だが、巨大化した中国の存在を考えるとそういうわけにもいかない。
相手国(この場合、日本と米国とEU)は違反国に対して対抗措置として、高い輸入税を賦課する権利を持つ。だがレアアースなどの資源の大半を有する中国に対して、レアアースの輸入税を高くすると、逆に市況が高騰して中国側の「思うツボ」になる。実際には「押す手」が、なかなかないに等しいのだ。
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