安河内:どうしてだか日本人の発想では、資格試験のラインをクリアしたら、その後は英語を勉強しなくなるんじゃないかと心配するようなのです。
斉藤:TOEFL iBT80のほうが、東大の入試に必要な英語力に比べて全然難しいでしょ。
安河内:ですよね。それで、条件としては、有効なスコアは高校2年生以降のものとしてもいいとも思います。低年齢からの加熱を避けるためにも。
斉藤:入試の過去何年以内という縛りを設けるということですね。そうなると即戦力の入学者がわんさかいるということになります。
安河内:80点を持っていれば、たとえばカリフォルニア大学とかでも。
斉藤:UCLAでも行けますね。
留学しない理由は1位「予算」、2位「語学力」
安河内:そういう大学に東大からどんどん学生を送れるのですよ。データとしてひとつ挙げておくとですね、経済産業省の委託調査によると、大学生が留学しない理由の1位は予算。でも、予算は何をするにしてもいちばん気掛かりなわけですから、実質上は2位が大切なのですね。2位は「語学力の不足」もっと具体的に言うと、「TOEFL iBTやIELTSの点数がとれないこと」なのです。
斉藤:自分の通っている大学に相当するアメリカの大学に行けるかというと、英語力が問題で行けないのですね。
安河内:現在、大学生がどういう状況かというと、今の入試で大学に入ってもTOEFL iBT やIELTSを受けたときに全然点数が取れない。それで勉強を始めると。勉強して基準点が取れるようなる頃には3年生になってる。そうすると就職活動が始まるのです。だから留学できなくなってしまう。
斉藤:入試レベルの英語自体がそれほど難しくないんですよ。
安河内:使われている文献や英語はやたらと難しいけど。でも、問題は線を引いてあって選べとかだから。
斉藤:うちで働いてるネイティブの講師に東大の入試問題を見せたら、「こんなに易しいの? これ日本の最難関大学の問題ですか?」って驚いてましたよ。こんな奇妙な問題形式で判定するのか?っていう反応でした。
安河内:おそらくその声を、作っている先生方が耳にすると、変な方向に難しくなるんですよ。難解な日本語論述をいれたりとか、すごく複雑な文法問題を入れたりとか。
斉藤:僕は“頭脳の減反”という表現を使いましたが、あれは中学入試の鶴亀算だけじゃなくて、ある意味で大学入試の数学だとか物理、英語、全般に同じことが言えると思うんですよ。要するに使われる語彙が決められていて、その中で難しい問題を作れということですから。そうなると変な工夫に走っちゃうんですよね。
安河内:私も、さまざまな難関大学の問題をさんざん教えてきましたけど、TOEFL iBTの問題が解ける生徒でも「ええ?」って悩む問題がいっぱい出るんですよ。本当に不思議です!
斉藤:大きな本屋さんに行くと、東大の問題が良問だっていう本がたくさん並んでますけど、あれもよくわからないですね。僕は大学の研究者だったから言いますが、日本型の大学入試を突破して、さらに大学院入試で日本型入試のまたちょっと難しいバージョンを突破して、アメリカに来た学生の英語力がひどいんですよ。訳読は丁寧にさせているというのなら、今の大学の教員、つまり入試を出題する人たちが、訳ができないんですよ。けっこう間違える。出題者が英語を知らないのじゃないかという問題意識が、僕にはすごくあって。
安河内:400も500もある大学で学部ごとに毎年毎年違う問題を作っていたら、クオリティが保てるはずがないです。
斉藤:参考書だって、そんなめちゃくちゃひどい過去問を選び抜いたものが、いい英語なわけないですよ。
安河内:ETS(Educational Testing Service)やケンブリッジ、そして日本の英語検定協会もそうですが、テスティングの専門家が集まって、統計理論から何から駆使して……。
斉藤:そう、理論を踏まえてデータを蓄積し検証しつつ問題を作ってる。
安河内:ものすごい問題バンクの中から統計値に基づいて出題しているわけです。日本の大学ではまったくそういうことはやってないです。ある先生が問題作成の依頼を受けて、専門書をコピーして張り付けて、線を引いて「説明せよ」と付して、それが入学試験になってる。
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