人気! 人間国宝の茶碗で抹茶が飲める美術館

入館数毎年5%増! 究極の「お客様志向」を発揮

このサービスの評判はとてもよく、全12種類のお茶碗を体験してみたいと、足繁く通ってくれるリピーターもいるとのこと。美術館は、美術品を「見に来るところ」と考えている人にとっては、このようなサービスは大きなサプライズとなり、オリジナリティになります。

美術館を空間としてとらえれば、来館者に時間消費の価値をどう提供するか、山口さんが言うように1時間滞在してくれるかどうかは、ひとつの目安として目指すべきものなのでしょう。

人間国宝によるお茶碗で、気楽に抹茶を楽しめるのが魅力

待っているだけではダメ? お客様に届ける美術館

そして、この人間国宝美術館にはもうひとつ、特徴的なアクションがあります。それは「出張美術館」です。美術館にとって作品の貸し出しは決して珍しいものではありませんが、「出張美術館」は貸し出しではなく、美術館自らが学校の体育館などに出張して、展示会を開催しています。それも、運搬料や展示料などを美術館側で負担するだけでなく、来場者の入場料も無料にしています。

その目的について、山口さんは次のように説明します。

「私たちは、デザインやアートに囲まれて生きています。日本人がもっと身近にアートに触れて、アートを好きになってもらえば、私たちの世界も変わるはずです。アートに触れる動機は何でもいいのです。タダだから来てみたとか、近所で話題になっているとか。日頃、あまりアートに触れていない人にも来てほしい。そこで、岡本太郎やピカソ、ルノワールなど、本物を見ていただき、少しでも興味を持ってもらえれば……。そのために、必ず学芸員も派遣して、お客様に丁寧に説明するようにしています」

2012年以降にすでに6回「出張」し、中には、3日間の開催で1万人以上の入場者数を記録したり、4日間の開催で地元の美術館の1年間の入場者数を超えた「出張美術館」もあります。

「大船渡市で開催したときには、市の方から『震災直後でなく、心が落ち着いてきた今だからこそ、来てもらえてありがたい』と言っていただきました。こういう言葉を直接もらうことで、かかわっているこちらも温かい気持ちになります。美術館を運営していくのは決して楽ではありませんが、特にスタッフは美術が好きで働いているからこそ、こういう形で美術品を通して誰かに価値を与えているという実感を持てることが大事なのです」

この「出張美術館」はボランティアで行っており、一部寄付があるとはいえ、美術品運搬や設営のコストなどを考えると、収支は大きく赤字です。そもそも、ビジネスとしての目的を持っていないとも山口さんは言います。

しかしながら出張先で、「人間国宝美術館」の名前を多くの人に知ってもらい、アートの可能性を感じることで、学芸員やスタッフにとってもモチベーションやスキルの向上につながる。そう考えると、美術館が建物の中だけで完結してお客様を待つのではなく、そこから飛び出して、どのように価値を伝えに行くかは重要です。

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