実際に人間国宝美術館を経営している館主、山口さんはさらに続けます。
「美術館がビジネスをきちんと考えるポイントは、その美術館のオリジナリティと、お客様志向です。百貨店でなく、専門的にやっていかないといけない。『これがいちばん!』と胸を張って主張できる価値がないとダメなのです。そして、お客様志向。私は、1時間滞在してもらえなければ、負けだと思っています。私たちの美術館は駅から近いわけでもないし、広いわけでもない。そんな中で1時間滞在してもらえなければ、行ったことすら忘れられて、次には来てもらえなくなります」
人間国宝美術館が持っているオリジナリティの中心は、名前のとおり、人間国宝の作品を多く集めていることにあります。特に人形のコレクションに関しては、全国で最も収蔵品数が多く、展示会開催時にはファンが全国から集まります。
しかし、日頃、アートになじみが深くない方々にとっては、人間国宝の焼き物や人形は鑑賞が難しいものです。そこで、ピカソやシャガールなどの絵と組み合わせた展示を行うなど、興味の入り口を広げる努力をしています。
しかし、これだけで1時間の滞在は厳しいでしょう。人間国宝美術館が注目されている理由は、ほかの美術館では行われていない、お客様への価値の提供にあるのです。
人間国宝のお茶碗で抹茶が飲める?!
人間国宝美術館では、開館以来、ここでしかできないお客様へのサービスを提供しています。それは、「人間国宝のお茶碗でお抹茶が飲める」というもの。お客様はひととおり展示を見た最後に、浜田庄司さんや加藤卓男さんなど、名だたる人間国宝のお茶碗からひとつを選び、そのお茶碗で抹茶をいただくことができるのです。中には300万円を超えるような茶碗もあります。
「やはり、見るのと、実際に触れるのは違います。ガラスケースに入っている茶碗を見ても、リアル感がないでしょう。特に茶道の世界には、『用の美』というものがあります。お客様の手で抹茶の温かさを、お茶碗を通して感じてほしい、その先に美術品の価値を感じてほしいのです。もちろん、お客様が割ってしまうリスクも考えました。でも、割ってしまってもそれは仕方ない、弁償などもなしと決めました。でも、このサービスを始めてから、実際に茶碗を割ってしまったお客様はひとりもいませんよ」
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