ヨシオさんに言わせると、「自分と先方と都合のよい日付と場所を決めたら、あとは大丈夫と思い込んでしまう」。物事を俯瞰して臨機応変に調整、判断することが難しいのだという。周囲からは「自分勝手なやつ」と思われてしまう。しかし、ヨシオさんはいつも「頭の中は毎日仕事のことでいっぱいいっぱい。でも、いつも周りから『こんな日程じゃ、打ち合わせ無理だろ』と指摘されて初めて気が付くんです」。
上司による叱責の中でも「反省しているふりをしてるだけだろ」「落ち込んでいるふりなんてしなくていい」と言われることがつらかった。同じミスを繰り返していただけに反論のしようがなく、自己肯定感が奪われていった。
イベントなどの看板の回収や、倉庫から備品を取ってくるように指示されたときも、明らかに視界に入っているはずなのに、目当てのものを見つけることができず、30分以上、イベント会場や倉庫内を右往左往してしまうことも珍しくなかった。
間違って子どもサイズの服を買う
普段の生活でも電車やバスを乗り間違えるのは日常茶飯事。衣料品店でも間違って子どもサイズの服を買ってしまうことがよくある。表示は目にしているはずなのに、認識ができない。
視覚情報を処理することが不得手なのは、発達障害を診断する際に補助的に行われる知能検査「WAIS(ウェイス)」の群指数のひとつ「知覚統合」の値が低い場合の典型的な特性のひとつである。
自治体では結局、2年で下水道施設を管理する部署への異動を命じられた。同じ時期、発達障害を疑ったヨシオさんは精神科を受診。「予想してたとおりの結果でした。診断された日、家で独りで泣いたことを覚えてます。わかったところで人生がよくなるとは思わなかったので」。
障害者枠での転職も考えて調べてみたが、あまりの給与水準の低さに驚いてやめた。「あれではとても生活できない。周りに迷惑をかけるやつはそれくらいで十分だろうということなんでしょうか。差別されているような気持ちになりました」と首をかしげる。
現在の職場では発達障害と診断されたことを打ち明けた。一部の同僚から「障害を言い訳にするつもりか」と面と向かって言われたが、さいわい上司との関係は悪くない。ミスをすれば叱られるが、故意ではないことを理解してくれるという。
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