「発達障害の生きづらさ」訴える男性が饒舌なワケ 年収280万円、正規職員で身分も安定している

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ヨシオさんのほうでも、発達障害とわかってからは自分なりに工夫をするようになった。書類は提出前に手の空いている人にチェックをしてもらう。携帯のアラーム機能を活用して物忘れを防ぐ。さらに自分専用の箱を用意し、書類はすべてその中に入れてつねに目に入るようにした。下手に仕分けするよりも紛失を防げるし、手間がかかる仕事を後回しにして締切直前に焦るという“悪癖”が改善されたという。

現在ヨシオさんの年収は約280万円。正規職員なので身分も安定している。ヨシオさんは「たまたま上司に恵まれているだけ。(その上司が)異動になればどうなるかわからない」と言うが、私がこれまで取材で話を聞いた発達障害の当事者に比べると、賃金水準は高く、転職回数も少ない。1人暮らしでもあり、いわゆる貧困状態にあるとはいえない。

発達障害の居場所を奪う社会こそが貧しい

それでもヨシオさんは自分の話を聞いてほしいと編集部にメールを送ってきた。そしてこんな持論を展開した。

「発達障害の人は迷惑かもしれません。でもそもそも人間はお互いに迷惑を掛け合う存在のはずです。僕らのような発達障害を排除することが、これからの社会にとって本当にいいことなんでしょうか」

発達障害の人々の居場所を安易に奪う社会こそが貧しいのではないか、というわけだ。同感である。ただここまではっきりと自己主張する当事者に出会ったのは初めてだ。「物言う弱者はたたかれる」という風潮はかつてなく高まっているから、ヨシオさんのような意見はバッシングに遭うだろうなと思う。

「発達障害は周りに迷惑をかける」と言う一方で「発達障害は社会をよくするための礎になるはず」とも。気持ちは複雑に揺れ動いているようだった(写真:ヨシオさん提供)

それでもヨシオさんは発達障害の当事者も「努力や反省をします」としたうえで「発達障害の人が普通に働けるようになれば、行き過ぎた効率主義や成果主義にも歯止めがかかるのではないか。それは定型発達(発達障害ではない人)にとっても風通しのよい社会になると思うんです」と訴える。

ヨシオさんの主張に既視感を覚えた。今から30年以上前に男女雇用機会均等法が施行されたときのことだ。女性が社会に参画すれば、長時間労働や過労死問題が少しは改善されるのではないかという期待が一部にあった。しかし、ふたを開けてみれば、女性が男性並みの働き方を求められる局面のほうが多かった。

この間、行き過ぎた効率主義、成果主義には拍車がかかりこそすれ、見直されることはなかった。女性以上にマイノリティーである発達障害が社会を変える切り札になりえるだろうか。私の問いかけに、ヨシオさんはこう答えるのだ。そこには希望と悲壮感が相半ばしていた。

「それでも僕は発達障害が社会を変える礎になると信じたい。そうでなければ、僕がこれまで味わってきた塗炭の苦しみが無駄になってしまう」

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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