私はかつてこの連載で、テレビ東京の『池の水ぜんぶ抜く大作戦』シリーズを取り上げ、その成功の要因を、「『見たいもの』を見せるのではなく、『見たこともないもの』を『見たいもの』に転換」したことにあると書いた。
テレビ東京の最近の深夜ドラマには「テレビで見たことのない、けど、見たくなるもの」があふれている。
その嚆矢となったのが、現在も放送中の『孤独のグルメ』シリーズである。輸入雑貨商・井之頭五郎(松重豊)が営業先で見つけた食堂に入って、何かを食べるだけのドラマなのだが、これが相変わらず見せて、魅せる。
このシリーズの成功要因は、「人、それも中年男性が、おいしそうに何かを食べるのを見るのが、こんなにも楽しいのか」という発見だと思う。もちろん松重豊の演技や演出力もあろうが、成功の根幹には、「中年男性の食事シーン」が「テレビで見たことのない、けど、見たくなるもの」だと見抜いたセンスがある。
食事に着目した新しいドラマが『お耳に合いましたら。』。こちらは食堂メシではなく「チェンメシ」(=チェーン店のグルメ)。築地銀だこ、ドムドムハンバーガー、ドミノ・ピザなどの「チェンメシ」がストーリーのキーになっていて、登場人物がこれらの「チェンメシ」をおいしそうに食べる。
サウナ、バッティングセンターなどの意欲作
「テレビで見たことのない、けど、見たくなるもの」として、一部の中年男性には「気持ちよさそうにサウナに入っている姿」もあろう。『サ道2021』は、全国の「サウナー」(サウナ好き)の見える化と拡大に貢献した『マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~』(講談社)の実写化。原田泰造、三宅弘城、磯村勇斗らが、サウナ後にくつろいでいる姿を見るだけで和んでしまう。
すでに終わってしまったのだが、テレビ東京の深夜ドラマで、この夏、私が最も楽しんだのは、『八月の夜はバッティングセンターで。』。バッティングセンターに来た悩める女性とともに、伊藤智弘(仲村トオル)が、野球の試合の最中にワープして、人生を指南するドラマ(と書いても伝わりづらいだろうが)。
脚本のポイントは、終盤、プロ野球OBの「レジェンド」が一瞬登場することだ。里崎智也、山本昌、吉見一起、古田敦也、上原浩治など。彼らが突然試合に現れ、含蓄のある一言を発するのだが、このあたり、野球ファンの私としては、まさに「テレビで見たことのない、けど、見たくなるもの」だった。
これ以外にも、門脇麦が終始困ったような表情をし続ける『うきわ―友達以上、不倫未満―』や『八月の夜はバッティングセンターで。』の後継、片桐はいり初主演連ドラ『東京放置食堂』、実在のバラエティ番組のドラマ化『家、ついて行ってイイですか?』など、意欲作が勢ぞろいだ。
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