さらに、現在は、イールドカーブコントロールと呼ばれる、長期金利を直接コントロールするためのターゲット水準を設けている。今は10年物国債金利をゼロ程度にすることで、長期金利をゼロに釘付けにしている。これは、短期金利市場を政策金利で殺していると同時に、長期金利市場までをも殺すことによって、金融市場を完全に長短ともに殺してしまっている、という重大な罪を犯している。これが第5の誤りだ。
実は、この第5の誤りと第4の誤りは、第3の誤りの副作用として生じたものである。長期国債のさらなる買い入れを、世間から、メディアから、そして自ら宣言した政策方針によって迫られてしまい、逃げ場がなくなった。
しかし「長期国債をこれ以上買ってはいけない」という日銀最後の良心が働き、それをなんとしても防ぐために、何でもいいから、国債を買う以外の手段をとれ、ということで苦し紛れに行ったものである。罪深いが、これが罪を犯した根本の原因ではない。それは日銀もわかっているはずだ。
日銀は「過ち」をどうすべきか?
では、このような経緯、環境の下で、今、日本銀行は、どのように、罪滅ぼし、いやさらなる罪を犯すことを止めるように動くべきか。第1と第2の過ちは取り返しがつかない。もう、そうなってしまっているから時計の針は元に戻せない。根本的な罪は、第3の過ち「インフレターゲット2%」、物価目標の存在である。これを撤廃するのが、根本的な解決の1つである。
日銀が行うべきもっとも重要なことは、継続的な物価下落(いわゆるデフレスパイラル)とはとことん戦うが、物価が安定的にプラスあるいはゼロ付近であれば、物価自体ではなく、景気の安定化という本来の目的を直接的な政策目標とする、と宣言することである。
もはやデフレではなく、デフレスパイラルが起こる恐れは小さいのだから「物価そのものではなく、景気減速を防止するために最大限の金融政策を行う」と宣言するべきである。
しかし、これが理想ではあるが、現実的ではない。なぜなら、中央銀行の政策目標は一義的には物価であり、物価の安定を通じて、景気安定、経済の長期的な発展に資するものである、という主張は理論的には否定できない。また、現実にも、その考え方を文字通りに捉えるべきだと考える経済学者、セントラルバンカーが数多くいるからだ。
今、このような根本的な論争をしている場合ではない。危機対応、異次元緩和という異常事態の是正であるから、このような根本の議論は長期的な課題として後回しにするべきである。
最小限やっておくべきことは「物価は重要だが、2%という絶対水準にこだわるのではなく、ある程度柔軟に考える」というスタンスをはっきり打ち出すことである。これは、はっきりとは打ち出されてはいないが、暗には成立しており、日銀は、この考え方で動いている。はっきりさせたほうがよいことはよいが、すべてを犠牲にして無理してやることもない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら