旧知の自民党議員は、タクシー業界の未来についてこんな表現を用いていた。
「世界の先進国をみれば、タクシードライバーとして自国の人間が働く割合は圧倒的に少ない。日本が異常ともいえる状況で、絶対数も多い。それだけに多くの利権が生まれ、ライドシェア(相乗り)の解禁といった自由化の動きも遅く、メスが入らなければガラパゴス化していく。
給付金の支払いを求める声があったが、現実的に全国30万人への支払いは困難だろう。政治の力で守るべき業界なのか、という疑念もある。何より今の日本にはタクシーの台数が多すぎる」
コロナ禍で顕在化した「台数問題」
実際、841万人強が居住するニューヨークでは、「イエローキャブ」の愛称で知られるタクシーは約1万3600台。898万人が生活するロンドンを走り、世界一ハードルが高いと言われる「ブラックキャブ」がおよそ2万台(いずれもUberは除く)。
これに対して、1396万人の東京は約4万7000台と、相対的にタクシーの台数が多い都市でもある(人口はいずれも2019年の統計)。もともと人口に対して多かったとされる台数問題は、コロナ禍でより顕在化された。
それでも国や行政、各地域からの要請で稼働台数が決められた中で、飲食店のように休業を選択できないジレンマもあった。
何より今の日本の多くのタクシー会社は、稼働台数を減らし、雇用調整助成金で何とかやりくりしていた。大手ですら億単位の赤字を垂れ流している。段階的に施行されるであろう助成金が減った後、アフターコロナへの対応にも危機感も募らせていた。街に活気が戻ることがなければ、劇的な回復は望めないだろう。
それでも、ドライバーにとっては走る以外の選択肢はない。タクシーは今後衰退していく産業であるということは真理かもしれない。それは見方を変えれば、100年の歴史の中で抜本的な構造改革が行われてこなかったことの代償でもある。
海野さんは、ついに故郷に戻るという苦渋の決断をした。日立市に戻ってからは、もうタクシーの仕事に従事するつもりはないという。
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