戦略と言えば、外交、防衛を主体に策定するのが伝統的な考えであった。しかし、今や戦略は外交、防衛のみにとどまらず、経済・金融、先端科学技術、医療(パンデミック含む)、インフラストラクチャー、サイバー、宇宙など安全保障に密接に関連する機能が複雑に絡み合っている。かかる多くの機能を取り込んで「国家戦略」を考察すべき時代に入っている。策定からすでに8年が経とうとしている「国家安全保障戦略」は、国民的な議論を経て、総合的な視点で見直すべき時期を迎えている。
有事に例えられるパンデミック
一昨年から世界を席捲している新型コロナウイルスによる猛威について、これは有事だと例える評者が多い。仮にこのパンデミックを有事と捉えるならば、感染症の専門家や医療従事者は実際の有事における軍隊に当てはまる。
緊急事態宣言発出の際に、首相の記者会見に陪席する感染症対策分科会の尾身茂会長を見て、10年前を思い起こした。東日本大震災の際、北澤俊美防衛大臣の記者会見に陪席した折木良一統幕長の姿と尾身会長がダブって見えたからだ。折木統幕長は軍事専門家として北澤大臣を補佐した。同じく尾身会長は感染症対策専門家として首相を補佐している。
こうしてみると、感染症対策にもシビリアン・コントロールの原則が適用されていると感じる。軍事に優先して最終的には政治が判断するというのがシビリアン・コントロールの神髄だ。感染症対策においても、最終的に政治が責任を取るという原則が確立しているように思える。当然ながら、国家のリーダーは、感染症対策のみならず、医療全般、経済・景気、さらに外交や防衛などにも目を配らなければならない。最後に“こうする”という判断は国民の負託を受けた政治家が採るべきものである。
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