この頃から、ビジネス界等で使用される経営戦略といった戦略とは、次元の異なる国家としての戦略が国内でも次第に語られるようになった。
新たな「国家戦略」策定の時
2013年の「国家安全保障戦略」策定から8年ほどの時を経た。この間、世界の情勢も一変した。アメリカの庇護の下に経済的な繁栄を享受できる時代はすでに過去のものとなった。日本周辺諸国は、自国の主権を真っ先に考えて軍事力の増強に余念がない。
特に、共産党一党支配による権威主義的な国家体制を持つ中国は、著しい経済成長と軍備の増強が相まって、戦後の国際秩序に挑戦し続けている。
他方、自由と民主主義の雄、アメリカは「世界の警察官」としての役割をオバマ政権時に放棄した。2017年に就任したトランプ前大統領は、「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」のスローガンを掲げ、単独主義的な傾向を強め、NATOなどの同盟国との協調関係をないがしろにした。
後を継いだバイデン政権は、国際協調を取り戻したかに見えるが、アメリカ国内の分断の傷は深い。加えて、アフガニスタンからの米軍撤退をめぐる混乱は、同盟・友好国に動揺を与え、中露などにはつけ入る隙を見せた。アメリカが今後どこまで国際問題にコミットするかは未知数になりつつある。
さらに、深刻化する地球環境問題や新型コロナウイルスに見られるパンデミックの発生は、人類共通の課題になりつつある。加えて、人工知能(AI)、量子コンピューター、5・6Gなどの先端技術をめぐる各国の熾烈な競争は激化する一方である。安全保障をめぐる状況は一層、複雑かつ複合的な様相を見せている。
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